日本酒でなくてはならない鍋とは

わたしの家飲みスタイル 今夜のおつまみ
日本酒でなくてはならない鍋とは
大森 清隆

日本酒サービス研究会・酒匠研究会連合会(SSI) 専務理事・事務局長

大森 清隆

 いよいよ冬。冬には「鍋」「日本酒」が、なんと似合うことか。私にとっての冬の鍋は、ぬくぬくの部屋で熱い鍋を、ハフハフ…。上着も脱ぎ捨て、Tシャツになり、熱さをビールやサワー類で一気に流し込む至福。それが、すき焼き、もつ鍋、はてまた、味噌に醤油に、味付けの濃い鍋とならば、なおさら至福…。自分だけでなく、これが現代、実際の鍋をつつきながら一杯のスタンダードなのではと感じる。

 無論、冬を迎え、寒いから鍋を欲するのであるが、食すのは、あくまでも暖房の行き届いた部屋。食べる頃には、すっかり冬とは言えず、ひたすら「ハフハフ、プハー!」の気持ちよさを求めるのが生理的欲求というものであろう。残念ながら、この世界に「料理と酒類の相性」という要素は乏しい。炭酸だったり、ある程度の酸味を持つ酒類であれば、この欲求は、ある程度、満たされてしまう。つまり、「鍋には日本酒だよなー」という場面は、冬でも部屋の中では、ぬくぬく過ごせる現代生活において失われつつある。

 しかし、ぬくぬくの部屋でも「日本酒でなくてはならない鍋」がある。冬であろうが夏であろうが、ぬくぬくだろうが寒かろうが、「日本酒以外ありえない…」という鍋とその楽しみ方を紹介する。

「ちり鍋」は日本酒でなくてはならない

 「ちり鍋」を定義するとすれば、「水煮」でいいであろう。もちろん、昆布などで奥ゆかしい出汁を張ることは言うまでもない。一般的には、ポン酢を付けて食べるのであろうが、塩でも良い。あるいは、様々な薬味も欠かせない。

 「ちり鍋」のポイントは、すき焼きやもつ鍋と違い、口に入れたら、目を閉じるぐらい、じっくり味わわないと、その旨さを存分に味わえないことにある。たとえば、具材の牡蠣や真鱈の白子は、噛みしめる度に濃厚な旨味が口一杯に広がり、その余韻はこれでもかと続く。たとえば、真鱈や豆腐は、噛みしめながら、奥底から湧き出る旨味を感じるのが楽しい。あるいは、あっさりとした葉野菜やきのこ類を噛みしめる度に増す甘味に感嘆するのが嬉しい。

 数ある鍋の中でも、こういうケースは、ビールやサワー類で一気に流し込むにはあまりにももったいなく…かと言って、ワインではしゃらくさく…そう、日本酒でなくてはならない。この噛みしめる度に広がる旨味だったり甘味だったりを真正面から受け止め、さらに増幅させてくれるのは日本酒以外では不可能と言って過言では無い。

 「ちり鍋」は、日本酒でなくてはならないのである。

イエノミ「ちり鍋」スタイル

 イエノミでの「ちり鍋」と日本酒は、外食時とは少し違った楽しみ方をしたい。別にいいのだろうが、お店では何となく一度に数種類の日本酒を注文するのは気が引けてしまう。よく、「〇〇鍋には、この日本酒!」といった推薦や紹介を聞いたり、目にしたりするが、そもそも鍋には、異なる数種の具材が混在しており、その全てにオールマイティーに合うのか、鍋の名称を飾るメインの具材との相性を言っているのか、このことだけでも、じっくり鍋と日本酒の相性を楽しもうという気にはならず、結局、何となく日本酒を注文し、何となく飲んでしまう。

 イエノミでは、心おきなく何種類でも日本酒を並べられる。だからこそ、イエノミでの「ちり鍋」は、味わい的に毛色の具材を数種、混在させ、それぞれの具材ごとに合わせる日本酒を変えながら楽しむことをお薦めする。

〈ちり鍋(イエノミスタイル)〉

 □鍋の具材例  

 (A)牡蠣、真鱈の白子、鶏モモ肉 

    (B)真鱈、真鯛、フグ、アンコウなどの白身魚

    (C)白菜、春菊、ネギ、キノコ類

  *昆布出汁のみで煮る

 □漬けダレ       ポン酢

 □楽しみ方

[具材(A)をつっつきながら]

具材(A)は、濃厚な旨味が持ち味の具材。漬けダレのポン酢が、その旨味をやや、さっぱりさせ旨味を引き立てるも、日本酒で再度、旨味を蘇らせるとともに、しっかりと受け止め増幅していく瞬間を楽しみたい。

そんな時には、米の旨味をしっかり感じながらも適度な酸味を持つ日本酒を選びたい!

[おすすめの日本酒] 帝松 純米吟醸 霜里

[具材(B)をつっつきながら]

具材(B)は、淡泊ながらも滋味な旨味が持ち味の具材。噛みしめるごとに湧き出てくる旨味を味わいながら、日本酒がそれを邪魔することなく同調する瞬間を楽しみたい。

そんな時には、香りも味わいも控えめかつ穏やかな日本酒を選びたい!

[おすすめの日本酒] 木村式 奇跡のお酒 純米吟醸「朝日」

[具材(C)をつっつきながら]

具材(C)は、噛みしめれば噛みしめる程、湧き出る甘さが特徴の具材。決して、しつこさを感じることのない甘さを堪能しながら、日本酒が同じベクトルで受け止めてくれる瞬間を楽しみたい。

そんな時には、ほのかに華やかさを感じる香りと控えめな甘味と酸味をもつ日本酒を選びたい!

[おすすめの日本酒] 純米吟醸「超久」兵庫県産山田錦2016(28BY)

https://ienomi.tokyo/column/%e6%97%a5%e6%9c%ac%e9%85%92%e3%81%a7%e3%81%aa%e3%81%8f%e3%81%a6%e3%81%af%e3%81%aa%e3%82%89%e3%81%aa%e3%81%84%e9%8d%8b%e3%81%a8%e3%81%af/

WRITERこの記事を書いた人

大森 清隆

日本酒サービス研究会・酒匠研究会連合会(SSI) 専務理事・事務局長

大森 清隆

都内ホテル勤務(レストランサービス)を経て、酒類輸出入卸売商社に勤務。
特に、清酒輸出卸売から現地輸入卸売までの一環事業を責任者として担当し、マーケティング・セールスプロモーション・取扱者教育の指揮を執った。
また、日本酒サービス研究会・酒匠研究会連合会の理事を務めるかたわら、消費者が外観か... もっとみる