酒類と料理の相性検証「日本酒・焼酎と揚げ物編」
日本酒を知ろう!エディター
家飲み編集部
揚げ物の魅力と言えば、サクサクとした衣の食感、熱々の温度、中身の具材のジューシーさ、つける調味料によって変化する味わい…等。油そのものにはほとんど味わいがなく、単体で食すことは基本的にはありませんが、食材と一緒になることで美味しさが増幅します。エネルギーとなる栄養素を持つ油脂は、出汁や砂糖と同様、人間の本能が美味しいと感じ、欲する食べ物の筆頭なのです。
そのような揚げ物を酒の肴とする場合、何のアルコール飲料が好相性でしょうか。
一口に揚げ物と言っても、唐揚げ、天ぷら、フライなど各種ありますが、一般的にイメージされるのは、こってりとした油分をスカッと流してくれるビールやハイボール、サワーなどの炭酸系酒類でしょう。
では、日本酒や焼酎はどうでしょうか。天ぷらなら日本酒、フライなら焼酎というイメージは実際に確かであるのか、更に細かく香味特性別分類(4 タイプ)の相性はどうか、調味料による変化はあるか。
新たな発見を求めて、テイスティングを行いました。
鶏肉と海老を使い、それぞれ天ぷらとフライに。日本酒・焼酎の4タイプとの相性を検証
メンバーは、第4回世界唎酒師コンクール優勝者でコンラッド東京レストランマネージャーの北原康行氏、「酒膳さめしま」の女将・唎酒師の鮫島智世さん、「和食日和 おさけと 日本橋」の代表で唎酒師・酒匠・日本酒学講師の資格を持つ山口直樹氏。進行はNPO法人FBO・SSIの長田卓研究室長が務めます。
揚げ物のサンプルとして、鶏肉を使って天ぷらとフライ(チキンカツ)にし、焼酎の香味特性別分類(4タイプ)との相性を探ります。一方、海老の天ぷらと海老フライは、日本酒の香味特性別分類(4タイプ)との相性を探ります。また、それぞれの天ぷらには塩レモン、醤油、ポン酢、天つゆ(大根おろしとおろししょうがつき)、フライには塩レモン、醤油、タルタルソース、中濃ソースをつけて、調味料の違いによる相性の度合いも検証します。
参加者3名は、日本酒は常日頃扱っていますが、焼酎はさほど多くないそうです。
会場はFBOアカデミー東京校にて、揚げたてを検証しました。
【メンバー】
北原 康行氏 (SSI 理事、第 4 回世界唎酒師コンクール優勝者、コンラッド東京 レストラン セリーズ / コラージュマネージャー)2012 年に唎酒師の資格を取得。著書『日本酒テイスティング』(日本経済新聞出版社)。
鮫島 智世さん 大井町駅より徒歩 6 分にある「酒膳さめしま」の女将・唎酒師。夫が作るおまかせコースに日本酒のペアリングを打ち出している。
山口 直樹氏 唎酒師・酒匠・日本酒学講師。50 種以上の日本酒を揃える「和食日和 おさけと 日本橋」を’1 8年 1月開業。神田御茶ノ水店、神保町店も展開。
長田 卓 NPO 法人 FBO・SSI 研究室長
【テイスティングに使用した焼酎】
フレーバータイプ 米 吟香 鳥飼(鳥飼酒造)
リッチタイプ 芋 貴匠蔵(本坊酒造)
ライトタイプ 麦 いいちこ(三和酒類)
キャラクタータイプ 麦 五代麦長期貯蔵酒(山元酒造)
【テイスティングに使用した日本酒】
薫酒 出羽桜 純米吟醸酒(出羽桜酒造)
醇酒 普通酒 吉乃川 厳選辛口(吉乃川)
爽酒 大七 純米生酛 CLASSIC(大七酒造)
熟酒 人気一 特別純米酒 長期熟成酒1998年(人気酒造)
■テイスティング1
焼酎×鶏胸肉の天ぷら 調味料各種(塩レモン、醤油、ポン酢、天つゆ
長田
みなさんの店舗において、揚げ物とアルコール飲料はどのような組み合わせで提供されていますか。
鮫島
うちはおまかせコースのみで、天ぷらやフライなど、何かしらの揚げ物は入れています。私が日本酒のペアリングを行っていますが、揚げ物は少し悩みますね。
山口
当店では、白海老の天ぷら、塩麹で味つけした鶏の唐揚げなどを提供しています。添えるのは塩やレモンですね。日本酒をウリにしているため、焼酎のリクエストは少ないです。
北原
私はホテル勤務ですので、和食ならば魚や野菜の天ぷら、中華で肉の揚げ物、フレンチはベニエなど個々で異なりますが、やはり日本酒とのペアリングは和食の天ぷらで、抹茶塩を添えたものなどですね。焼酎のペアリングを希望されることはあまりないですが、海外からのお客様の中では興味を持たれている方も。
長田
では、まず1品目は鶏の天ぷらに対し、4種の調味料と、4タイプの焼酎との相性を探り、各自コメントをお願いします。鶏は胸肉を使い、下味なしであっさり、やわらかく、衣もさほどクリスピー
さのないタイプです。焼酎は同量の水割りであるトワイスアップにしています。
北原
天ぷらに対し、焼酎がありかなしかで言えばありだと思いました。中でもキャラクタータイプは、塩レモン以外の3つの調味料と良い組み合わせですね。醤油ならば、その風味の強さをやわらげ、ソフトで甘い印象を残す。ポン酢は油分を消してくれることで、キャラクタータイプとの相性が良くなる。大根おろしの苦味と天つゆの甘味ともマッチします。ライトタイプはキレがいいので万人受けしますが、新たな発見はありません。フレーバータイプとの相性は、揚げ物に塩や柑橘を合わせることの多い女性には喜ばれるのではないかと。リッチタイプはアルコールの強さと喉越しの良さを感じるので、焼酎好きな中高年男性向きかな。ターゲットやコースの流れによって選択を検討すると良いでしょう。
鮫島
フレーバータイプならば塩レモンよりもポン酢のほうが、まろやかにマッチしました。ライトタイプは塩レモンが良く、他の調料でも全般に合いますね。リッチタイプとキャラクタータイプは
醤油や天つゆとの組み合わせが好相性だと思います。特にキャラクタータイプは、熟成の香りとしょうがの風味の後味がマッチしていました。
山口
総合的に言うと、際立って良いものがなく、悪いものもなく、でしたが、一番相性が良くておもしろかったのは醤油とキャラクタータイプ。樽香と醤油の波長が合うと感じました。コースにおいて、後半に提供する揚げ物には濃いめの味のお酒を合わせられると良いので、こういうのもありだと思いますが、ただ、日本酒か焼酎かと言えば、やはり日本酒が勝ちますね。
長田
キャラクタータイプは総じて高評価でしたが、それ以外は特筆すべき相性はない。しかし、そこまで深く追求するよりも、むしろ、ターゲットを一般家庭やカジュアルな居酒屋とすれば、万人受けする爽やかなライトタイプを、塩レモンかポン酢ですすめるのが有効ではないかと思います。
●まとめ 鶏胸肉の天ぷらと焼酎の相性
マニアックに相性を追求するよりも、居酒屋や家庭で、ライトタイプの水割りと塩レモンやポン酢で、すっきりさっぱり、気軽に楽しむ提案を!
■テイスティング2
焼酎×鶏モモ肉のフライ 調味料各種(塩レモン、醤油、タルタルソース、中濃ソース)
長田
次は胸肉よりも旨味の強いモモ肉を使ったフライです。よりオイリーさと衣のサクサク感が増しているチキンカツと、焼酎の相性はいかがでしょうか。
山口
天ぷらではキャラクタータイプが合うと感じましたが、フライにするとリッチタイプのほうがカツの旨味との調和が取れていると思います。調味料の比較では、タルタルソースはどの焼酎と合わせても玉ねぎの苦味を感じてしまいました。強いて言えば、キャラクタータイプとは合うかもしれません。塩レモンは、良い意味で揚げ物のボリューム感を感じられますね。
鮫島
フライには中濃ソースというのが普通の組み合わせだと思いますが、焼酎と合わせる場合には醤油のほうが好相性だと感じます。タルタルソースはリッチタイプやキャラクタータイプと合わせると、焼酎がまろやかさを増して良かったです。ライトタイプはキレがあってスイスイ飲めそうでいいのですが、キャラクタータイプとの組み合わせのほうが、おもしろみがありますね。
北原
塩レモンとライトタイプはアルコールが甘くソフトに変化しておもしろかった。中濃ソースと醤油を比較すると、焼酎には醤油のほうがマッチしますね。唯一、キャラクタータイプは甘味が増して良いですが。私は、タルタルソースとフレーバータイプの組み合わせは、若い世代に好まれるのではないかと思います。チキンカツを食べるシーンは、高級店よりもカジュアルな店や家庭のほうが多いと思うので、居酒屋への提案としておすすめしたい。
長田
チキンカツのクリスピーな食感は酒類と合わせるポイントでしたね。タルタルソースとリッチタイプの組み合わせはコクとまろやかさが同調してとても美味しく、次に、私は中濃ソースとキャラクタータイプの組み合わせが感動しました。鶏天は塩レモンとライトタイプのあっさりとした相性に対し、チキンカツはタルタルソースや中濃ソースをつけて、リッチタイプやキャラクタータイプを組み合わせた濃厚さを推奨したい。特に、唐揚げとハイボールが好きという人にぜひ体験していただきたいですね。
●まとめ 鶏モモ肉のフライと焼酎の相性
タルタルソースまたは中濃ソースでリッチタイプやキャラクタータイプとの組み合わせは、焼酎の価値を高めてくれる。主に居酒屋で提案したい。
■テイスティング3
日本酒×海老の天ぷら 調味料各種(塩レモン、醤油、ポン酢、天つゆ)
長田
揚げ物と焼酎の相性は総じて高評価でしたが、日本酒はどうでしょうか。まずは海老の天ぷらから試してみましょう。
山口
日本酒を中心にして見ると、醇酒が一番好相性で、特に醤油と調和すると感じました。薫酒はどの調味料ともあまり合わず、その中では天つゆがまあまあ良かった。爽酒は当たりさわりがなく、その中で良かったのはポン酢。熟酒はお酒をメインにつまむというならばアリですが、料理が主体の場合はお酒が強すぎるでしょうね。
北原
海老という食材に対し、日本酒のチョイスは難しいと日頃から思っています。ワインで考えると、インパクトのある味わいのあるものを持ってきがちですが、実はそうではなく、すっきり爽快感のあるものが意外と合ったりするんですよね。よって、醇酒と熟酒はあまり評価できませんでした。しかし、薫酒と塩レモンの組み合わせはフルーティーさがマッチして良いと思いました。あるいは、リセット効果の高い爽酒も良かった。天つゆと合わせると、アルコール感が消えて飲みやすかったです。余談ですが、焼酎でも試してみたところ、天つゆにつけた海老天とリッチタイプが良く合いました。海老天は蕎麦屋で食すことも多いと思うので、爽酒または蕎麦焼酎をお湯割りにして合わせたら良いのではないかと。
鮫島
私は、海老の旨味に対し醇酒が相乗効果で合うと思いました。どの調味料でもいけますが、醤油やポン酢をつける機会はあまりないと思うので、天つゆか塩がいいですね。熟酒はやはりお酒が勝ってしまいます。爽酒は逆にお酒の甘味が感じられ、油分を流してくれるので、普通に合うと思いました。薫酒は塩レモンやポン酢と爽やかな好相性ではあるのですが、お酒を飲んだ時にわずかに海老の臭みを感じました。
長田
胡麻油の風味や海老の甘味ややわらかさに対し、日本酒はもっと高評価になるかと思っていましたが、そうでもないようですね。天つゆと醇酒の相性が良いことはわかりましたが、例えばカウンターの天ぶら専門店だと、海老はコースの最初の頃に出てくるので、そこから醇酒を通しで合わせるのは重すぎるので、緩急を考えて組み込むと良いでしょう。薫酒と塩レモンやポン酢との組み合わせが悪くなかったので、これはビギナーへのアプローチとして可能性がありそうです。
●まとめ 海老の天ぷらと日本酒の相性
天つゆと醇酒で美味しさアップ。
コースの緩急を考え組み込むのが得策。
薫酒と柑橘系調味料は若者・ビギナー向き。
■テイスティング4
日本酒×海老フライ 調味料各種(塩レモン、醤油、タルタルソース、中濃ソース)
長田
延々と揚げ物を試食してきましたが、みなさん大丈夫でしょうか。最後の海老フライをがんばってお願いします。
山口
薫酒は天ぷらよりもフライのほうが合うと感じます。特にタルタルソースとはトーンが一致して、おもしろい。爽酒は総じて天ぷらのほうが良かった。油がより重くなる分、爽酒の流す効果は弱い感じです。醇酒はまあまあ調和しており、熟酒は海老との相性というよりもパン粉の香ばしさや油の風味と相性が悪くないと思いました。特にタルタルが良く、余韻の広がりがあります。違う具材のフライでも、タルタルと熟酒を試してみたいですね。
北原
私もタルタルと薫酒はいいと思います。カジュアルなシーンで提案できますね。醇酒は塩レモンだとお酒のほうが強くバランスが悪いですが、それ以外の調味料とは同調して良いと感じました。爽酒は悪いわけではないが、感動はない。熟酒は、素材が生きていないと感じ、私はどれもバツでした。全体的な印象としては、日本酒と海老フライの組み合わせは少々強引な気がします。
鮫島
私もタルタルのまろやかさと酸味が薫酒のフルーティーさとマッチしていて良いと思いました。中濃ソースでもいいです。爽酒は塩レモンまたは中濃ソースならば悪くない。醇酒は最初の一口はいいのですが、食べているうちに少々くどくなってきます。熟酒も中濃ソースとは合いましたが、やはり重たいですね。
長田
確かに、タルタルソースに対し薫酒の吟醸香は違和感なくマッチし、または中濃ソースに爽酒のリセットもアリだと思いました。醇酒とタルタルもまろやかさを感じます。しかしながら、みなさんの意見を総合すると、秀でた相性は見られない、となりますね。焼酎のほうがフライには合うということになりそうです。海老フライを食べるシーンで考えると、家庭または洋食店が多い。洋食店の場合にはやはりビールやサワー、ワインを合わせるのが主流となるでしょう。家庭の場合は、子供の喜ぶおかずであり、
それを一緒に食べる親が日本酒好きであれば、調味料を工夫し、薫酒や爽酒を試してみる価値はあるのではないでしょうか。
●まとめ 海老フライと日本酒の相性
薫酒とタルタルソースはフルーティーさが活きる。
塩レモンと爽酒はさっぱり感を楽しめる。
しかし、際立って好相性なものはなく焼酎に軍配が上がる。
終わりに
長田
最後に、今日の検証の感想を一言ずつお願いします。
山口
日頃は日本酒のことばかり考えていましたが、焼酎はストライクゾーンが広く、食中酒として使えるなということが発見でした。揚げ物が出るコースの後半で、うまく組み込めたらいいと思います。
鮫島
当店は芋焼酎が1本程度で、このような経験は初めてで勉強になりました。焼酎のキャラクタータイプ
が意外と揚げ物に合うのは驚きで、日本酒の熟酒では濃すぎるところを、焼酎にしたらいいかもしれないと思いました。
北原
1品1酒のペアリングを追求する店ではなく、複数の料理に合わせる店において、焼酎は有効活用でき
ることがわかりました。調味料の違いなど組み合わせによっても味の幅が広がりますしね。中でも、焼酎のライトタイプが平均的に良く、ピンポイントではキャラクターやリッチタイプもおもしろいと感じました。また、今どきの味覚として、マヨネーズベースのタルタルと薫酒の組み合わせは違和感がないので、オランデーズや白ワインソースなどの洋食に対し、薫酒を持ってきてもいいのではないかと思いました。酒販店において、子供もいる一般家庭の夕飯に合わせるお酒として、セールストークにもなることでしょう。
長田
揚げ物と日本酒・焼酎の相性を、ここまで深く追求したのはほぼ初めてでした。しかし、いろいろと試してみると、新しい発見が得られるものです。会員のみなさまにも、好奇心を持って積極的に取り組んでいただきたいですね。また、揚げ物を引き立てた日本酒・焼酎は、天ぷらや洋食を出す飲食店に大いにすすめたいですし、逆に日本酒・焼酎を引き立てた揚げ物は、日本酒・焼酎を販売する際に、おすすめ料理として提案いただきたいと思います。このような相性検証が、日本酒・焼酎のセールスプロモーションに役立つよう、今後も続けていきたいと考えます。
検証結果一覧表 各テイスターの4段階評価を集計しまとめました。
FBOもてなしびと「酒類と料理の相性検証「日本酒・焼酎と揚げ物編」」2019/1月号より引用
WRITERこの記事を書いた人
エディター
家飲み編集部
お酒が大好きなライター、アーティスト、編集者、イベンター、フードジャーナリスト、リカーショップスタッフなどなど、お酒を愛して止まない「イエノミスタ」が結成した「家飲み編集部」。それぞれの家飲みの風景や、お酒のセレクト、おつまりレシピなどをご紹介します!... もっとみる
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