郷土料理 北海道編
日本酒を知ろう!エディター
家飲み編集部
全国津々浦々、地域の特色が映し出されている郷土料理。古くから親しまれているものに加え、近年になって開発され、定着した料理もあります。連載の第1回目は、北海道の郷土料理を紹介。
農業産出額と海面漁業・養殖業生産額がいずれも都道府県トップを誇る北海道は、ジャガイモやトウモロコシ、牛、サケ、ニシン、帆立貝、昆布、乳製品など、名物の食材・食品のバリエーションが豊富。オハウと呼ばれる具だくさんの汁物や干したサケなどアイヌ民族の伝統的な料理と、各地からやって来た開拓民の食文化がミックスされ、多様な料理が生まれました。また、米生産量全国2位の米どころでもあり、酒造好適米は吟風と彗星に加え、2014年には新品種のきたしずくが優良品種として登録され、11軒の蔵が酒造りを行っています。
漬け物・珍味・刺身
●イカ粕漬け
イカの足を胴に詰めて酒粕に漬ける。函館の名物で、粕イカとも呼ばれる。細かく切った白菜やニンジンと一緒に詰めたものも。
●鮭とば
秋鮭を皮つきのまま細長く切って干した干物。切る前に塩をすり込む、干す前に海水に漬ける、または塩漬けにするなど、地域によって作り方が異なる。元々はアイヌ民族の保存食。とばはアイヌ語で「サケを細長く切って干したもの」を意味するトゥパに由来するとされ、漢字では冬葉と書く。そのままか、焼いて食されるが、焼く前に日本酒に漬ける、または表面にぬると美味しい。真ダラを使った「鱈とば」もある。
●はさみ漬け
主に漁師町で親しまれてきた漬け物。白菜や大根、ニンジン等の野菜や昆布で魚介をミルフィーユ状にはさんで漬ける。魚介はサケが定番だが、カニや数の子、帆立貝、海老など、バリエーションはさまざま。
●氷頭なます
氷頭とは、サケの鼻先にある軟骨のことで、氷のように透き通っているためこのように呼ばれる。生のサケまたは新巻鮭の氷頭を薄切りにして酢で洗い、粗めに切った大根と共に甘酢であえる。ユズの皮やイクラをのせる場合も。おせち料理として食べられることが多い。
●松前漬け
松前藩があった松前町周辺が発祥。江戸時代後期、ニシンが豊漁で、その卵である数の子も安価だったことから、当初は数の子を主役に昆布やスルメを合わせ、塩で漬けたものが食されていたが、数の子が高価になってからは昆布とスルメだけを漬けたタイプが主流となった。また、1937(昭和 12)年に商品
化された際、味つけを塩よりも親しみやすい醤油ベースにアレンジされたことから、現在は醤油味のほうがよく知られているが、松前町では現在でも塩味が主流となっている。
●女奮(めふん)
雄のサケの中骨に沿ってついている腎臓で作る塩辛。川を遡上してウロコに赤褐色の斑紋が出たブナザケと呼ばれるサケのものが良いとされている。腎臓を意味するアイヌ語のメフルが由来。
歴史は古く、平安時代には宮廷へ献上され、鉄分が多く貧血に効果があることから女官たちが好んで食していたとされている。
●ルイベ
元々はアイヌ民族の料理で、生のサケを雪に埋めて冷凍保存し、凍ったまま薄切りにして火であぶって食べられていた。アイヌ語のル(溶ける)とイペ(食べ物)が語源。現在はサケやマスが使われ、凍ったまま供されることが多い。また、寄生虫を死滅させるため、冷凍には−20°C以下の冷凍庫が使われる。
焼き物・揚げ物
●ザンギ
鶏の唐揚げの一種で、醤油やにんにく、ショウガで味つけした肉に小麦粉か片栗粉をつけて揚げたもの。1960(昭和 35)年頃に釧路の焼き鳥屋が考案した。鶏を唐揚げにした中華料理の炸子鶏(ジャーズージー)や、鶏肉を散切りにすることがその名の由来とされる。近年、現地では「タコザンギ」や「鮭ザンギ」など、鶏以外の食材を同様に調理したメニューも登場している。
●ジンギスカン
中央が山型に盛り上がった専用鍋で、羊肉と野菜を焼く。旭川や滝川はあらかじめ肉に味つけして焼き、道南や道東の札幌、函館、室蘭、釧路などでは生肉を焼いてからタレをつける食べ方が主流。大正時代、羊毛の生産量を増やすために羊の飼育が積極的に行われており、肉も活用して農家の収益増につなげ
るねらいで考案。日本軍が旧満州へ進出した際、現地で食べられていた羊肉の料理がヒントになっているとされる。名前の由来は諸説あるが、源義経が北海道からモンゴルへ渡ってジンギスカンになった、という伝説からつけられたとされる説が有力。
●ちゃんちゃん焼き
魚介と野菜を鉄板またはホットプレートで蒸し焼きし、味噌で味つけする。魚介はサケが主流だが、マスやホッケで作られることも。石狩の漁師料理が発祥で、名前の由来は、「お父ちゃんが調理する」「ちゃっちゃと素早く作れる」「焼く時に鳴るチャンチャンという鉄板の音」など諸説ある。
汁・鍋
●石狩鍋
サケのぶつ切りとアラを、キャベツや玉ネギ、大根といった野菜、豆腐、キノコなどと共にだし汁で煮込み、味噌で味をととのえ、食べる時に山椒を振りかける。サケ漁が盛んだった石狩川の漁師料理が起源で、1880(明治 13)年に河口付近の飲食店が観光客向けにメニュー化した。
●かじか汁
冬に沿岸部で獲れるトゲカジカを使った鍋料理。ぶつ切りにしたトゲカジカの身と内臓、大根やジャガイモ、ニンジン等の野菜を水またはだし汁で煮込み、味噌で味つけする。トゲカジカは味が良くてだしもよく出るため、あまりの美味しさに鍋が壊れるほど箸でつついてしまうというたとえから別名「鍋壊し」とも。
●含多湯(がたたん)
とろみのある塩味のスープで、小麦粉で作っただんごやタケノコ、シイタケ、豚肉、卵、白菜やニンジン等の野菜といった10種類以上の具が入っている。スープは鶏ガラや豚骨ベースなど、店によってさまざま。戦後に満州から引き上げてきた中華料理店店主が、現地の家庭料理を元に考案した。
●ごっこ汁
函館近海で獲れるホテイウオ(ごっこ)をぶつ切りし、長ネギや大根、キノコ、豆腐等と共にだし汁で煮込み、醤油で味つけする。
●三平汁
塩漬けまたはぬか漬けにした魚と野菜をだし汁で煮込む。魚の塩分を生かし、特に味つけは行わない。魚は元々ニシンのぬか漬けが使われていたが、近年では道南や道東で塩鮭、道北では塩ダラが主流で、その他に地域や家庭によってはニシンやホッケで作られることもある。名前の由来は、漁師の斉藤三平が作ったという説や、有田焼の三平皿に盛りつけるなどがある。
●鉄砲汁
ぶつ切りにしたカニの足を具にした味噌汁。足の殻に箸を入れ、身を取り出して食べる様子が、鉄砲の弾詰めに似ていることから名づけられた。根室で水揚げされる花咲ガニで作られるものが有名だが、タラバガニやズワイガニ、毛ガニなども使われる。
飯・丼
●イカめし
足や内臓を取り除いたイカの胴に米を詰め、醤油で味つけしただし汁で炊いたもの。函館本線森駅の駅弁業者が、第二次世界大戦中の1941(昭和16)年に米を節約した弁当として、当時漁獲量が多かったスルメイカを使って開発したものが元祖で、現在も全国の駅弁の中で人気の上位に入る。
●エスカロップ
1963(昭和38)年、根室の洋食店が地元漁師のために考案。略称「エスカ」。名前の由来は、薄切り肉を意味するフランス語など諸説ある。当初はナポリタンに仔牛のカツレツをのせてデミグラスソースをかけていたが、材料の高騰により仔牛が豚になり、ナポリタンはケチャップライス、更にタケノコ入りのバターライスへとアレンジ。現在は白エスカと呼ばれるバターライスが主流だが、ケチャップライスの赤エスカも。ドライカレーに牛ハラミをのせ、デミグラスソースをかけた「オリエンタルライス」も、同じ根室発祥の郷土料理として知られる。
●黒飯(こくはん)
それぞれ蒸しておいたもち米と黒豆を混ぜ合わせ、再度蒸し上げたおこわ。主に、葬式や法事の際に折り詰めで出される。
●スープカレー
1971(昭和 46)年に札幌の喫茶店が提供し始めた、カレー味の薬膳スープが発祥。当初はスープのみだったが、お客のリクエストにより大きめにカットされた野菜や肉の具が入るようになった。
●豚丼 醤油や砂糖の甘辛いたれをつけて焼いた豚肉の丼。豚はロース肉かバラ肉を使うのが一般的。1933(昭和 8)年、帯広の食堂が、庶民でも手軽に食べられる豚肉料理として、鰻丼をヒントにして考案した。牛丼のように割下で豚肉を煮て作る豚丼と差別化するため、「十勝豚丼」「帯広豚丼」「帯広系豚丼」とも呼ばれる。
麺類
●スパカツ
1960(昭和 35)年、当時人気だったミートソーススパゲティをベースに、より豪華なメニューとして釧路の洋食店が考案。熱した鉄板皿にスパゲティと豚カツをのせ、ミートソースをかける。
●ラーメンサラダ
1985(昭和 60)年に札幌のホテルが、サラダ感覚で食べられるラーメンとして開発。現在では北海道全域の居酒屋の定番メニューとなっている。ゆでた中華麺の上に生野菜をのせ、タレをかける。具やタレの味つけは店によってさまざま。
軽食
●揚げいも
皮をむいて塩ゆでした丸ごとのジャガイモに、小麦粉やベーキングパウダー、卵、牛乳などを混ぜたホットケーキのような衣をつけて揚げたもの。衣がアメリカンドッグやフレンチドッグに似ていることから、「ジャガイモドッグ」とも呼ばれる。
●いも餅
皮をむいてゆで、つぶしたジャガイモに、デンプンまたは片栗粉を混ぜ合わせ、丸餅やだんご状に成形して焼く。醤油やバター、砂糖などで味つけして食べる。「いもだんご」とも呼ばれる。稲作技術が未発達だった頃、餅の代用メニューとしてジャガイモやカボチャで作られたのが始まり。
「FBOもてなしびと 郷土料理北海道編2019年5月号」より引用
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家飲み編集部
お酒が大好きなライター、アーティスト、編集者、イベンター、フードジャーナリスト、リカーショップスタッフなどなど、お酒を愛して止まない「イエノミスタ」が結成した「家飲み編集部」。それぞれの家飲みの風景や、お酒のセレクト、おつまりレシピなどをご紹介します!... もっとみる
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