エディター
家飲み編集部
令和に名を挙げた日本酒の新星。
「天美(てんび)」
は、そんな日本酒の新時代を担う銘柄のひとつです。
2019年に造りを開始したピカピカの新ブランドながら、
既に日本酒ファンにはお馴染みのお酒。
酒造初年度から大きな話題を生み、一躍日本酒界で輝きを放ちました。
以下では、
長州酒造「天美」に関わった方々の努力と想い、信念、そのストーリーをご紹介します。
●「始まり」
天美を製造する長州酒造は、山口県下関市菊川町にある酒蔵。
菊川町は面積の7割を山系に囲まれ、開けた田園平野には清流「木屋川」・「田部川」などが流れています。
湧き水が多く、下関市の水道水のほとんどは菊川町が水源となっています。
そんな水の豊富な菊川町で1871年に創業したのが、清酒「長門菊川」を醸していた児玉酒造。
しかし蔵元はご高齢で跡継ぎもなく、15年ほど酒造りもやめている状態でした。
そんな、廃業寸前の児玉酒造のもとに突如として現れたのが、チョウザメ養殖の為に上質な水を探していた長州産業株式会社、岡本晋社長でした。
この偶然の発見が、この地から消えようとしていた日本酒の火を再び灯す切っ掛けとなります。
●「決意」
偶然の出会いやタイミングに恵まれたようにも見える「天美」のシンデレラストーリーですが、その裏には大変な苦労がありました。
そもそも、
・酒造免許を譲り受け新しい蔵を立ち上げること
・その蔵の現在から未来までを任されること
この2つにはどちらも、並々ならぬ決意が必要なのです。
そんななか長州産業株式会社は、失われつつあったこの地の日本酒文化を守ることを決意。児玉酒造を買い取ります。
しかし日本酒造りは酒蔵を建てたらできる、というものではありません。
農家や取引先など多くのつながりでやっと成立し、信頼関係も運営に大きく影響します。
また、お酒が順調に売れたとして、発足から利益が出るまでには数年の時間を要する、忍耐のいる産業です。
このように、新たに酒蔵を立ち上げるというのは大変な問題をいくつも抱えます。異なる業界からの新規参入となれば尚更です。
つまり日本酒産業参入への判断を下すこと自体に強い覚悟と決意が必要であり、長期的な投資、赤字も頭に入れてスタートする必要がありました。
そんな状況下で岡本晋社長は、この地の日本酒文化を守るべく「不退転の決意」で計画を推し進めました。
●「出会い」
児玉酒造の買い取りを決めた長州産業株式会社。その新たな酒蔵のスタートアップに、酒造りを担う「杜氏」として白羽の矢が立ったのが藤岡美樹杜氏です。
岡本社長へ機器メーカーの方から「設計段階から杜氏を入れた方がいい」とアドバイスがあり、良い人がいると紹介されたのが出会い。
新しい蔵の杜氏を依頼された藤岡さんですが、当初は異業種からの新規参入がいかに難しいかということ、途中で投げ出されては関わる様々な方々が迷惑するということなどを岡本社長に説明し、断るつもりだったそうです。
しかし、長州産業のモットーでもある岡本社長の“不退転の決意”に触れるうち、最終的には承諾しました。
●「杜氏」
岡本社長の決意に触れ長州酒造の杜氏となった藤岡美樹さんは、酒造りだけでなく新蔵の設計から関わります。
新しい蔵に設計から携わるのは、長年酒造りをやっている人であってもそうそう無い経験。
一方で、何もかもを一から始める困難と責任、大変な多忙と重圧が待ち受けることをも意味します。
しかし藤岡さんは、その機会をチャンスと捉え、大きな決意と共に動き出します。
母体は異業種の長州産業。蔵人はほとんどが酒造り初心者でした。固定観念にとらわれない長所はありますが、責任者である杜氏が細かいところまで目を配らないといけません。 藤岡さんが揺らげばすべてが揺らぐ。そんな環境での酒造りが始まりました。
●「新しい蔵」
長州酒造では道具・機材も新しく新調しました。
全ての蔵がうらやむような設備が揃っている一方で、同時に、いわゆる「新品臭」が床、壁、全ての機器、器具からするものです。
そして、こういった臭いは必ずお酒にも影響してしまいます。
奇しくもコロナ禍に建立した長州酒造。その動けない期間、藤岡さんは毎日毎日掃除を行い、徹底的に新品臭を取り除きました。
過去の経験から清掃・清潔感の重要性を認識していた藤岡さんは、蔵の隅々まで掃除が可能な設計を行いました。
掃除に関しても手の抜けない、手を抜かない環境が作り上げられています。
●「天美の成功」
「微差は大差」の精神を基に、酒造りのどの工程でも数値管理を徹底。火入れにしても0.1度の単位までこだわった天美。
その結果「初年度はこんなもんだよね」という日本酒ファンのハードルを大きく上回る、瑞々しく雑味のないお酒で、業界に驚きを与えました。
妥協なき酒造りが天美の味の決め手であり、単に飲みやすいだけではなく、通にもアッと言わせる美しさを併せ持つお酒となった秘訣でした。
●「新体制」
一身上の都合で初代の藤本杜氏が退社されると、2023年の末頃より長州酒造は新体制に入ります。
数今まで多くのことを担ってきた杜氏の退社という穴は、決して小さなものではありません。
長州酒造では相原酒造、赤名酒造、奥出雲酒造、重家酒造、金光酒造、山陽盃酒造、清水清三郎商店、白糸酒造、澄川酒造場、永山本家酒造場、新澤酒造店、西酒造、みいの寿と数々の酒蔵に指導を仰ぎ、新体制での新たな出発を果たしました。
苦境を好機とみなし、初代杜氏の礎より更に良いお酒の製造を目指すのは、岡本社長の「不退転の決意」があってこそです。
※ 下の動画では長州酒造の内部を覗き見できます。
●「天美の味は?」
天美の味わいは、まずキレイ、美しいのが特徴。
雑味がなく、長時間飲んでも飽きにくい酒質。
フレッシュでジューシー。優しい甘みと酸味。美発泡が心地よい。そしてどれも嫌味に感じないバランス感覚が秀逸です。
香りは控えめなものが多く、しかし魅惑的にそそられるフルーティーな香りはずっと感じていたい。
食事に合わせることも想定されているので、時間帯やシーンを選ばずに美味しく飲めるのも特徴でしょうか。
ほとんど人を選ばず「これは美味しい」と言わせてしまうお酒のパワーが、天美の幅広い人気の礎となっています。
●Sake Shop 海琳堂をご利用ください
Sake Shop 海琳堂は天美の特約店。
新商品・定番商品共に続々入荷中です。
以下画像やリンクなどから商品ページをご確認いただけます。
※在庫により品切れとなっている場合がございます
●天美の看板商品であり、多くの日本酒ファンを感嘆させ旋風を巻き起こした中核の商品。
きれいで雑味なし、余分なにおいや後味を全く感じさせない、旨味と酸味のバランスが絶妙な純米吟醸。
初天美、初日本酒にはこのお酒をお勧めします。
●白天と並び、天美を代表するお酒「特別純米(黒天)」。白天よりもお米由来のコクと旨味が厚めに表現されており、食中酒としても大変な人気です。美味しい水が鮮やかに表現する旨味と酸味。そこに生原酒のフレッシュさが爽やかです。
●きれいなお酒に磨きをかけた贅沢なお酒。
山田錦を40%まで削り、どこまでも透明感のある味わいに。
曇りのない天然水を旨味と酸味が流れる様子は、表現に困ってしまうところ。
プレゼントにも最高の一本です。
【天美 純米吟醸 うすにごり 桃天】※予約受付中★2月15日より順次出荷
●天美の季節商品として一番人気のお酒が純米吟醸うすにごり生原酒。通称「桃天」です。どこまでも美しい白天の味わいに、もろみのにごりが混ざり味わい深く仕上がった日本酒。かすかに、でも確かに桃の印象が浮かび、ジューシーに楽しめる一本です。
●下関市 菊川町について
長州酒造は、本州の最西端山口県下関市にあります。
下関市は言わずと知れた港町で、宮本武蔵と佐々木小次郎が戦った「巌流島」や、北九州とつながる「関門橋」、そして何より高級魚「フグ」で有名です。
三方を灘、海峡に開かれており、他の魚介類についても豊富な水揚げがあります。
そんな下関市にあり、菊川町は内陸部に位置し、ゆるやかな山々に囲まれた盆地となっています。
酪農が盛んで、下関市の牛乳のシェア、及び給食に出される牛乳はほとんどが菊川町の牛乳だそうです。関っ子の成長に欠かせない役割を担っています。
「木屋川」「田部川」が合流する水資源の潤沢な地でもあり、各地にきれいな湧き水の水汲み場があります。美しい水を活かした「そうめん」も名産品となっています。
他にも、食、桜、蛍など様々な名物が魅力の下関市菊川。天美の美味しさの一端も、この環境によるものであることは間違いありません。
下関市菊川町、及び長州酒造に、ぜひ遊びに行ってみてはいかがでしょうか。
- 2024/1/10 情報更新
WRITERこの記事を書いた人
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家飲み編集部
お酒が大好きなライター、アーティスト、編集者、イベンター、フードジャーナリスト、リカーショップスタッフなどなど、お酒を愛して止まない「イエノミスタ」が結成した「家飲み編集部」。それぞれの家飲みの風景や、お酒のセレクト、おつまりレシピなどをご紹介します!... もっとみる
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