ハワイで醸したとても珍しい日本酒「ISLANDER SAKE(アイランダー)」愛される魅力と秘密。

日本酒 “PICKUP” 蔵元からの便り
ハワイで醸したとても珍しい日本酒「ISLANDER SAKE(アイランダー)」愛される魅力と秘密。
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ハワイに行った人はみんなハワイが好きになります。
太陽が降り注ぎ、人々が穏やかでピースフルで、なんだかすごく癒やされる…。ホノルル州ココアカの中心地に2020年オープンした日本酒蔵「Islander Sake Brewery(アイランダー・サケ・ブリュワリー)」の日本酒は、まさにそんな”ハワイ“のような味わいがするハワイ生まれの日本酒です。

ISLANDER SAKEを立ち上げたのは高橋千秋さん。醸造研究家や醸造コンサルタントとして、これまで酒蔵やワイナリーに酒造りの指導をしてきた醸造のスーパープロフェッショナルです。どうして彼女はハワイに酒蔵を作ったのか?酒造りのためのお米や水はどうしているのか?そしてその味は? 今回はカカアコにいる高橋さんとビデオ電話をつなぎ、たっぷりとお話を聞きました。

ハワイで日本酒を造るのが夢だった。

▲ハワイの酒蔵「Islander Sake Brewery」で日本酒を造る高橋千秋さん

― 今日の蔵はどんな様子ですか?
高橋さん:いま夕方の4時前なんですが、今日は大吟醸の搾りをやっていました。31日間くらいかけて発酵させたんですが、飲んだ方の評判は今の所いい感じです。数週間後にはカルローズの大吟醸も搾れると思います。

ー 蔵ではお酒を買ったりその場で飲んだりもできるんですか?
高橋さん:そうです。タンクのある部屋の横がダイニングルームになっていて、ボトルを買ったりこの場で飲めたりします。蔵はカカアコという街の中心地にあって、有名なアラモアナショッピングセンターにもほど近い場所。家賃がものすごく高いのですが(笑)、実際にサケを作っている横でお酒を飲めるのが一番大切だと思ったので、山奥ではなく、たくさんの人が訪れやすい立地にしました。夜はここで私が作るフルコースを出すんですよ。

ー 料理もされるんですね!どんな料理を出すんですか?
高橋さん:和食の家庭料理です。私はここをレストランではなく「蔵キッチン」だと言い張っているんですが、イメージは酒造りの期間に住み込みで働く蔵人たちが囲む食卓。近所の方や蔵の奥様や娘さんが食事を作り、夜は杜氏を囲んでお酒を飲む、みたいなのが日本的ですごくいいなと思っていて。私もお客さんとたくさんお話をしますし、一度来た方はリピーターになってくださいます。ペアリングというよりは、お客さんも私たちも双方が楽しい、アットホームな雰囲気を大事にしています。

▲カカアコにあるIslander Sake Brewery

ー 地元の方は久しぶりにハワイに酒蔵ができたことを喜んでらっしゃいますか?
高橋さん:現地にもお酒が好きな人が多いので、喜んでくれていると思います。ハワイには30年ほど前まで日本からの移民が創業した日本酒蔵がいくつもあったという歴史があります。ハワイで途絶えてしまった日本酒文化を再興させたいという思いがあります。

ー それでハワイに酒蔵を造ったんですか?
高橋さん:それもありますが、全米日本酒鑑評会の審査会の審査員の一人としてホノルルに来たことがきっかけでした。出品酒を試飲できる「Joy of Sake」というイベントがあるのですが、島中から日本酒が好きな方が集まっていて、「日本以外でも日本酒がこんなに愛されているのか」と衝撃を受けたんです。もともと個人的にもハワイは大学生の頃から何度も訪れていた好き場所だったので、酒蔵の歴史もあり、日本酒を愛する人達がいるならば、大好きなハワイでいつか日本酒を造りたいと思うようになったんです。

ハワイで醸す。Islanderならではの酒造り。

ー 酒造りにはハワイの水を使っているということですが、どんなお水なんですか?
高橋さん:ハワイの水は降った雨が地面に染み込んで、20年くらいかけて海と大地の間にたまったものを引いてきているので本来は軟水なんです。でも水道管が古いので手元にくる時は鉄分などを含んで硬水になってしまう。だから仕込み水には逆浸透膜で成分をすべて除去した水を使っています。ただこのままだと微生物の活動に必要なミネラルが不足するので、タンクに入れる時にごく微量のハワイアンソルトを足すという裏技を使っています。本当は海の水を入れてみたいけれど、衛生的に心配ですしね(笑)。

ー やっぱり日本の水より造りにくいんでしょうか?
高橋さん:でも水の成分が限りなくゼロに近いのは良い部分もあって、造ったサケが劣化しにくいんです。水に余計な成分がないために、化学変化が起きにくいのが理由。アイランダーのサケは火入れしないで半年以上置いておいても味が変わりません。ハワイは日本より気温が高いので本来なら品質管理にも気をところですが、これはありがたいです。

▲タンクは白ワイン用のものを改良。上までしっかりジャケット(冷却水が回る装置)を負けるようにするこ
とで外気に関わらず発酵温度を調整することが可能に。
▲搾りは特注で作ったミニヤブタで。ハワイでも伝統的な酒造りを実践するために設備にはこだわったそう。

ー 酒米は日本産の雄町やきたしずくを使用されていますが、輸送は大変じゃないんですか?
高橋さん:日本のお米はこちらでも人気があるので、毎月北海道から定期便で送られてくるんです。酒米もそれと一緒に送っていただいています。なので品種は「きたしずく」など北海道のものが入っているんです。雄町は岡山県で「奇跡のりんご」の木村式自然農法を使って栽培されている雄町を送っていただいています。メーカーの方とたまたま岡山県で出会ってからのご縁です。

ー カリフォルニア産の山田錦は初めて見ましたが、日本のものとどう違いますか?
高橋さん:印象は両者ともそっくり。でも私達にはすごくいいことに、カリフォルニア産の山田錦は粒が大きいこともあって、精米しても中心部に少しミネラルが残るんです。日本産のものはお米の外側にだけミネラルが入るように丁寧に品種改良されている。アメリカはやっぱりなんかこう、アメリカというか(笑)。でもそれがミネラルが不足しているハワイの水には合っていて、醸しても発酵が元気で味を出しやすいです。

ーなんだか不思議ですが、土地と合っているんですね。カルローズも酒造りには向いているんでしょうか?
高橋さん:カルローズはこちらでは大きな袋で売られている安いお米という印象ですが、実はお父さんが短稈渡舟という山田錦のお父さんと同じ品種なんです。お母さんは外国種なのでハーフですね。酒米の血を引いていて淡白な味わいで酒造りにも向いています。地元の人にもこの説明をすると、食用としては美味しくないお米だけどお酒になるとおいしいのが納得だといってくれます。

ー ゆくゆくはハワイ産のお米でお酒を醸したいという野望があるとか?
高橋さん:現在ハワイでは一粒もお米を造っていないのですが、いずれは酒米栽培を復活させて地元の農業を応援したいです。食用のお米はカリフォルニア産に価格などで勝てないと思いますが、酒米ならばお酒で価値を出すことができるし、こういった取り組みを面白がってくれる方もいるはず。大学や研究者を巻き込んで、長期のプロジェクトとして取り組みたいです。ドキュメンタリー映像にするために、今から撮影しておかなくちゃですね(笑)。

ー ラベルデザインもすごく素敵ですが、どなたかデザインされたんですか?
高橋さん:これはクラランス・リーさんという、ハワイのあらゆるデザインはこの方が手掛けているといっていいほどの有名デザイナーさんにお願いしました。マカデミアナッツチョコレートのパッケージも、JTBのトロリーも、ハワイのホテルのロゴもほとんどこの方です。すごくお金はかかったのですが、ハワイ中にあふれる彼のデザインならハワイと合うし、記憶しやすいかなと思ったんです。ハワイ島にあるフォーシーズンスホテル・フアラライの中に「ULU OCEAN GRILL」という素敵なレストランが海辺にあるのですが、ここに似合うデザインにしてくださいとお願いしました。

飲むと癒される“ハワイ”を表現する味わい

▲Instagramにはハワイらしい写真がたくさん @islandersake

ーIslanderのサケは甘味と酸味のバランスがよくて、さわやかさの中にほっこりとした優しさがある味わいだなと思いました。
高橋さん:ハワイの癒やされる感じを表現できないと、ハワイで造る意味がないじゃないですか。ゆるくて優しくて、飲むとつかれた自分がなんだか癒やされるハワイみたいなお酒。それを造ることを大事にしています。ハワイでサケを造るようになってから、“地酒”ってあるんだなと実感したんです。それは日本全国の酒蔵さんもそうで、やっぱり造ったその土地でしか味わえない味ってあると思う。だから変に東京の流行に合わせたりしなくても、その土地で飲んで一番おいしいお酒を思い切って出したらいいのになって思います。いつかは皆さんにもハワイに来てここで飲んでほしいです。どこでもドアがあればいいのに(笑)。

ー 地元の人にはどんなサケが人気なんですか?
高橋さん:一番の売れ筋は大吟醸とカルローズ。すごくサケに詳しい人以外は、大吟醸など香りが華やかなものを買っていく人が多いです。大吟醸はソーヴィニヨン・ブラン、山田錦はシャルドネの香りがするなんて言われるので、私もそう紹介したりしています(笑)。あとはにごり酒が人気なのも日本とは少し違いますね。ドライなお酒をくれと言われることが多いので、カルローズや山田錦をおすすめしていますが、うちのお酒はどれも比較的甘味があるんです。それでもみんな美味しいと言って飲んでくれるので、辛口の概念が少し違って、きっと甘くて美味しくないお酒をどこかで飲んだせいだと思います。

ー ハワイで日本酒を造るという夢が叶ったわけですが、どんなお気持ちですか?
高橋:酒造り以前にまず、人生は何度でも、いつからでもやり直しができるんだよということを体現したいという気持ちがあります。私自身、子供が病気を患っていて一度キャリアを止めた経験があり、特に女性は一度家庭に入ってもまた戻ってこられる環境をつくることが大切だと思ったんです。それぞれに違った経験があるはずだから、その人にしかできないことで、やりたいことを実現するという生き方があってもいい。酒蔵を成功させるよりも、そういう働き方や生き方を実践している感覚があります。

ー まさかそんな答えが返ってくるとは…めちゃくちゃかっこいいです。
高橋:酒蔵は酒蔵で、これから「文化」を造っていかなくてはいけないと思っています。日本の酒造りを持ってきて、そこにハワイの要素を合わせたものが地元の文化に発展する。たとえばこちらではビールに氷を入れて飲みますが、ハワイではサケに氷を入れるのがスタイルだったらそれもいいし、ハワイの果物を発酵させたものを使ったサケがあってもいい。正解はまだわかりませんが、着物がアロハシャツになったように、寿司がカリフォルニアロールになったように、ハワイ独自のサケ文化を創るのが私の次の目標。そう思って、毎日サケを造っています。

高橋さんのストーリーとハワイが詰まったIslander Sake。ジューシーで爽快感のある味わいで、本当においしいです。日本でハワイの風を感じながらぜひ飲んでみてください。海琳堂は日本でまだ数少ないIslander Sakeの取扱代理店です。店舗やオンラインストアで、ぜひチェックしてみてください。

Islander Sake Brewery 
https://www.islandersake.com/

https://ienomi.tokyo/column/islandersake/

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家飲み編集部

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お酒が大好きなライター、アーティスト、編集者、イベンター、フードジャーナリスト、リカーショップスタッフなどなど、お酒を愛して止まない「イエノミスタ」が結成した「家飲み編集部」。それぞれの家飲みの風景や、お酒のセレクト、おつまりレシピなどをご紹介します!... もっとみる