和の調味料探求「塩」編
日本酒を知ろう!エディター
家飲み編集部
今や世界各国に普及しつつある日本の調味料。私たち日本人にとっては、あまりにも身近な存在ゆえ、深く知る機会は意外と少ないのではないでしょうか。連載の第 5 回目は「塩」をテーマに歴史や、原料・製造法の違いによる種類などについてまとめてみました。
歴史
世界の製塩の歴史は古代にまでさかのぼります。ヨーロッパでの製塩はメソポタミアを起源とし、エジプトやギリシャ、ローマへと伝播。エジプトではミイラ作り、ギリシャでは魚介の保存に塩は不可欠でした。塩を意味するラテン語のsalarium はローマ時代、貴重な塩を買うために兵士に与えられたお金のことも指しており、これが転じて英語のsalary(給与)となったのです。また、中国でも早くから製塩が行われ、漢の時代にはすでに専売制が行われていました。
日本で塩が使われるようになったのは、縄文時代末期から弥生時代にかけて。それまでは狩猟によって動物を捕獲し、塩分が含まれた動物の内臓や骨の髄も食べていましたが、農耕生活に移り、食べ物が米や野菜中心になったため、必要な塩分は塩から摂るようになりました。6〜7世紀の遺跡からは製塩用の土器が発掘されていて、当時は干したホンダワラなどの海藻に海水をかけて濃い塩水を取り、土器で煮詰めて塩を作る、藻塩焼きという方法が行われていました。その後、技術が発達し、能登、赤穂、四国の瀬戸内海沿岸、伊勢、北陸など、各地で塩が作られるように。明治時代に入り、1905 年から専売制を実施。これは低価格で質の高い海外産に対抗するための製塩業の育成・保護や技術改良と、日露戦争の戦費調達が目的でした。しかし、第二次世界大戦中には生産量が激減し、輸入もできなくなったことから、塩は配給制となり、自家用の製塩も一時的に認められます。戦後の 1949年に日本専売公社が設立され、専売制が復活。専売制は長年実施されてきましたが、1997年に廃止となり、2002年からは販売が自由化されました。
分類
<原材料による違い>
日本では岩塩層や塩湖が存在しないため、主に海塩が作られています。
・海塩
海水が原料で、世界の総生産量の約3割を占めます。製法によって更に以下の 3 種類に分かれます。なお、天然塩や粗塩と呼ばれるものは、一般的に精製塩以外のミネラル分が多い塩を指します。
‐精製塩:海水を電気分解することで濃い塩水を取り出し、煮詰めて作ります。炭酸マグネシウムを添加したものは、一般的に食卓塩と呼ばれます。
‐せんごう塩:かん水と呼ばれる濃縮した海水を煮詰めて作ります。
‐天日塩:海水を塩田に引き、太陽光や自然の風によって水分を蒸発させて作ります。
・岩塩
地殻変動によって陸に残された海水が干上がり、地中に残ったものです。岩塩層から掘り出す、またはいったん水で溶かしてから汲み上げて採取します。世界の総生産量の6割を占め、海外ではポピュラーな塩となっています。
・湖塩
地殻変動によって陸に残された海水が、長い年月をかけて濃縮されたことでできた塩分濃度の高い湖、または岩塩が地下水等に溶け出てできた湖の水が原料です。乾季に水が干上がって結晶化したものを採取するか、湖水を煮詰めて作ります。世界の総生産量の1割を占めます。
・温泉水塩
温泉水を煮詰める、または温泉水に海水を混ぜて結晶化させた塩で、日本で唯一作られている福島県では昭和20年代に製造が途絶えてしまい、2007年に復活しました。
<形状による違い>
塩が結晶化する時の条件により、でき上がる結晶の形が変わります。
・立方体
標準的な形。塩水の中で上下・左右・前後に均等に結晶が成長したもの。
・トレミー
中心が空洞になったピラミッド形。塩水の表面に浮かんだ結晶が自重で少しずつ沈みながら成長してできます。
・フレーク
薄い板状の結晶。塩水の表面で成長した後、割れてできます。
・凝集晶
小さな立方体の結晶がたくさん集まった状態。平釜で煮詰めて作る塩に多くみられます。
製造
精製塩、天然塩(せんごう塩、天日塩)の代表的な作り方とともに、天然塩は製法別の特徴が表れた商品を紹介します。なお、海水を濃縮する作業を採かん、採かんによって作られた濃縮海水をかん水、かん水を煮詰めることをせんごうと呼びます。
<精製塩>
電気エネルギーによって海水を分解し、塩分だけを通すイオン交換膜を用いて、海水の塩分量を 3%から18%まで濃縮したかん水を取ります。これを真空蒸発缶で煮詰めます。元々日本では天然塩のみが作られていましたが、1972 年に開発されたこの技術で精製塩が作られるようになり、広大な塩田の必要性や天候に左右されることもなくなったことから、主流となりました。
<天然塩>
・採かん
・揚浜式
水分がしみ込みにくいように砂浜をかためた「塩浜」と呼ばれる塩田に人力で水をまく作業をくり返し、天日で乾燥させ、砂についた塩分を海水で洗い流してかん水を取ります。せんごうには平釜を使用し、藻塩焼きの次に古い手法で、平安時代にはすでに行われていました。かつては潮の干満差が少ない日本海沿岸や、太平洋側の波の荒い海岸で行われていましたが、現在は能登半島の一部のみとなっています。
「奥能登揚げ浜塩」
日差しの強い4月下旬〜10月初旬にかん水が作られ、荒炊きが6時間、本炊きは16時間行われる。650ℓのかん水から100㎏の塩が採れる。
株式会社奥能登塩田村
☎ 0768(87)2040
・ 入浜式
潮の干満差を利用し、砂浜の塩田に海水を引き込み、乾燥させてから海水をかけてかん水を作ります。揚浜式の次に新しい技術として室町時代末期から行われるようになりました。主に干満差が激しい内海や干潟で行われていましたが、江戸時代初期には瀬戸内海沿岸地域に大規模な入浜式塩田が作られたことから、一帯は一大産地となりました。
「入浜式の塩」
1988 年に香川・宇多津町が入浜式塩田と煮詰め用の釜を復元。これらを使って作られている。生産量は年間 2t程度とわずか。まろやかでコクのある味。
復元塩田/釜屋
☎ 0877(49)0860
・流下式塩田
流下盤と呼ばれる、ゆるやかに傾斜した塩田の表面に海水を流し、日光で水分を蒸発させる工程と、竹の枝を編んだ枝条架(しじょうか)の上から滴下して風によって水分を蒸発させる方法を併用してかん水を取ります。昭和30年代から入浜式に代わって導入された方法で、生産量は2.5〜3倍に拡大しました。
「浜比嘉塩」
枝条架と、赤瓦を敷き詰めた流下盤での蒸発作業をくり返し、かん水を作る。スチームボイラーの平釜を使い、低温で4時間炊き、自然乾燥させている。
高江洲製塩所
☎ 098(977)8667
・せんごう(結晶化)
・天日
天日と風を利用してかん水の水分を飛ばし、結晶化させる。
「土佐の海の天日塩あまみ」
土佐湾に面した高知・黒潮町で、流下式の方法で作ったかん水を天日干しによって結晶化させ、ふんわりとした塩に仕上げている。
土佐のあまみ屋
☎ 0880(55)3402
・その他の製法の塩
特殊な製塩方法や加工法による塩もある。代表的な商品例と共に紹介する。
・藻塩
海藻を使って作られた塩の総称。古くは海藻に海水をかけて取った濃い塩水を煮詰める、藻塩焼きの方法が取られていましたが、現代では海藻を漬けたままで海水を煮詰める手法が一般的です。海藻を含むため、やや黒みがかった色になります。
「海人(あまびと)の藻塩」
広島の上蒲刈島で製塩土器が発掘されたことをきっかけに作られた。ホンダワラを海水に浸してから平釜で時間をかけて煮詰め、結晶化させる。
蒲刈物産株式会社
☎ 0823(70)7021
・焼塩
製塩後、高温で加熱することでにがりの成分を変化させ、さらさらにしたものです。加熱により、味もまろやかになります。製塩技術が現代ほど高くなかった頃は、にがりが多く含まれていて湿気やすかったため、各家庭では焼いてから使うのが一般的でした。
「オホーツクの塩 焼塩」
オホーツク海の海水が流れ込むサロマ湖の水のみを使用。数日かけて採取した塩を更に直火で焼いて仕上げている。
株式会社つらら
☎ 01586(5)3703
成分
一般的な精製塩の成分は 99%以上が塩化ナトリウムで、カルシウム、マグネシウム、カリウムなど、その他のミネラルが極少量含まれています。一方、天然塩は精製度合いが低くなる分、ミネラルが多くなり、成分バランスによってカルシウムの甘味やマグネシウムの苦味、カリウムの酸味を感じやすくなります。
塩分の取りすぎは高血圧や脳卒中などにつながり、「日本人の食事摂取基準(2015 年版)策定検討会」によれば、18 歳以上の男性は 1日当たり8.0g未満、女性は 7.0g未満という目標が定められています。
生産量
2016 年の塩の生産量は 92 万 8000t。国内では沖縄、愛媛、兵庫での生産が多いです。対して輸入量は 678 万 9000t で、主にメキシコ、オーストラリアから輸入されています。自給率は非常に低いですが、消費量の 8 割はソーダ工業用や融氷雪、家畜用が占めています。食塩の輸出は中国や韓国、アメリカなどに行われています。
「FBOもてなしびと 和の調味料探求「塩」2018年9月号」より引用
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家飲み編集部
お酒が大好きなライター、アーティスト、編集者、イベンター、フードジャーナリスト、リカーショップスタッフなどなど、お酒を愛して止まない「イエノミスタ」が結成した「家飲み編集部」。それぞれの家飲みの風景や、お酒のセレクト、おつまりレシピなどをご紹介します!... もっとみる
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