日本酒サービス研究会・酒匠研究会連合会(SSI) 専務理事・事務局長
大森 清隆
秋めいてきた。日本酒は、夏酒の季節を終え、「ひやおろし」「秋あがり」の季節へと移り変わる。これから冬にかけての日本酒の楽しみ方のひとつは何と言っても「燗酒」。ひやおろしや秋あがりといった香味が円熟し旨味がのった日本酒を美味しくいただけるのはもちろんのこと、この時期に旬を迎える食材を使った肴と一緒にいただくことは、秋から冬にかけての日本酒の醍醐味とも言える。
さて、燗酒は冷酒と違って、燗を付けるという一手間がいる。この一手間こそ、家のみの醍醐味であるから、まずは、燗の付け方にこだわってみたいが、その前提となるのが、温度変化による日本酒の香味変化の法則である。
下図は、日本酒を温めた場合(燗酒)と冷やした場合の香味の各要素のメリットとデメリットを表したものである。ご覧のとおり、温めた場合のメリットには、「広がる」「まろやか」「ふくらむ」「やわらか」「おだやか」といった、冷やした場合のメリットとは対照的な、ほっこり系の言葉が並ぶ。そう、燗酒は、「ほっこり」なのである。
次に、燗酒は、一般的に結構細かい温度帯ごとに下表のような粋な言葉で表現されている。そう、燗酒は「粋」なのである。
家のみでの燗は卓上で付ける
燗の付け方については、あれがダメだの、これがダメだの、とやかく言われているが、家のみでの燗付けは何よりもキッチンのガス台や電子レンジを使うとゆっくり楽しめないので是非、卓上で付けたいものである。
用意するのは、卓上コンロ、鍋といったお湯が沸かせる設えと温度計、徳利、お猪口。電気式の卓上酒燗器なども販売されているので、この機会に用意するのも良いだろう。尚、あらかじめ用意しておいたお湯を使う手もあるが、ゆっくり楽しむには、結局、途中で熱いお湯を用意しなければならないため、個人的には…(面倒臭い)。
用意するのは、卓上コンロ、鍋といったお湯が沸かせる設えと温度計、徳利、お猪口。電気式の卓上酒燗器なども販売されているので、この機会に用意するのも良いだろう。尚、あらかじめ用意しておいたお湯を使う手もあるが、ゆっくり楽しむには、結局、途中で熱いお湯を用意しなければならないため、個人的には…(面倒臭い)。
酒の温度と肴の温度にこだわり「ほっこり」楽しむ極意
日本酒と料理の相性について言えば、確かに「これぞ!」というピンポイントな相性があったり、香味のタイプごとに、おおまかな傾向があったりする。しかし、「これはダメだ…」といった組み合わせは探す方が難しいほど、日本酒は料理に対して懐の広い、万能な相性を示し、この傾向は、冷酒よりも燗酒の方がさらに増す。よって、今回は、酒の温度と肴の温度にこだわった燗酒の楽しみ方を提案する。コンセプトは、燗酒と肴の一体感による「ほっこり」……。
(1)常温(室温)までの肴は30~40℃の燗酒で
科学的には、ヒトは一般的に30℃以下のものを痛覚の作用により「冷たい」と感じ、無感帯と言われる30~40℃の体温近い温度に対しては熱いとも冷たいとも感じないとされる。常温とは20~25℃の室温を指すので、いずれにしても、この温度帯より冷たい肴を食べた口の中の温度を、この無感帯と言われる温度に燗酒によって上げていくと実に心地よく、「ほっこり」…。
(2)牛肉、羊肉を使用した常温までの肴は40~50℃の燗酒で
常温までの肴でも、牛肉と羊肉を使った肴には30~40℃の無感帯よりも少し温度を上げた燗酒を合わせると良い。これは、動物性脂肪の融点との関係。牛肉、羊肉の脂肪の融点は、無感帯よりも高い場合があるので、燗酒の温度が低すぎると、口中でほどよく溶けた脂肪分が再び、凝固する方向に向かってしまいかねない。この動物性脂肪と燗酒が口中で、じんわり交わる瞬間が「ほっこり」…。
(3)熱々の肴には熱めの燗酒で
一般的に熱々とは言っても、料理が美味しいと感じる温度の上限は65~75℃とされ、60℃ぐらいがぬるくなく美味しいと感じる下限とされる。すなわち、熱々のこの温度帯の肴に合わせる燗酒は、なるべくこの温度帯との差が少なく、かつ、料理よりも若干低い温度で、「はぁー‥‥」となるような温度が良い。肴で「アツアツ、ホ~ホ~」、燗酒で「はぁー‥‥」の瞬間が「ほっこり」…。
燗酒と肴の相性その2:酒の温度と肴の温度で「ほっこり」のペアリング
今回は、人が科学的に「美味しい」と感じる温度に注目した。肴と燗酒の温度の関係は、このほかにも脂肪分や五味(塩味・甘味・酸味・辛味・旨味)というような要素も重要であるが、「ほっこり」という観点では、何よりも温度、そして不快感を避けるうえでは脂肪分との関係が大切になる。
その1では、3つの大きな法則を挙げたが、これに基づいた、家飲み最強のペアリング(筆者が思う…)を紹介する。
■「常温イカの塩辛」と「人肌燗(35℃)」
普通、家庭で「塩辛」は冷蔵庫で保管されているが、あえて早目に冷蔵庫から出し、室温にしたイカの塩辛を用意する。温度が上がることにより、イカの塩辛の旨味の感じ方が増す一方、特有の生臭さも増すが、これが無感帯(30~40℃)の温度である「人肌燗(35℃)」の燗酒と交わった瞬間、燗酒の持つ力を思い知るだろう。
■「少し高い牛肉のたたき(粗塩&生姜)」と「上燗(45℃)」
モモ、ロースなどに適度なサシが入った少し高い牛肉を使った「牛肉のたたき」は粗塩と生姜の薬味。牛肉のたたきの芳醇な旨味が、「上燗(45℃)」の燗酒と交わった瞬間、さらに旨味が増幅し、燗酒の温度設定がいかに重要かを思い知るだろう。
■「潮汁」と「熱燗(50℃)」「飛び切り燗(55~60℃)」
魚介類からダシが出た熱々の潮汁。具の魚介類をつっつき、汁をズズー。ここに、燗酒としては温度の高い「熱燗(50℃)」や「飛び切り燗(55~60℃)」をゆっくり一口。まるで、別の料理を食べたかと思う程のさらなる旨味に出会い、「燗酒は旨い」を思い知るだろう。
WRITERこの記事を書いた人
日本酒サービス研究会・酒匠研究会連合会(SSI) 専務理事・事務局長
大森 清隆
都内ホテル勤務(レストランサービス)を経て、酒類輸出入卸売商社に勤務。
特に、清酒輸出卸売から現地輸入卸売までの一環事業を責任者として担当し、マーケティング・セールスプロモーション・取扱者教育の指揮を執った。
また、日本酒サービス研究会・酒匠研究会連合会の理事を務めるかたわら、消費者が外観か... もっとみる
-
CATEGORIES
-
TAGS