麻婆豆腐には「無濾過生原酒」、キムチには「日本酒度-」の法則

わたしの家飲みスタイル
麻婆豆腐には「無濾過生原酒」、キムチには「日本酒度-」の法則
大森 清隆

日本酒サービス研究会・酒匠研究会連合会(SSI) 専務理事・事務局長

大森 清隆

 今回のテーマは「辛い料理と日本酒の相性」。ご存じのとおり、「辛い」と一言で言っても、いろんな「辛い」があり、ここでいう「辛い」は、唐辛子の辛さである。そもそも、辛い料理と日本酒の相性など、しみじみ考えたことも無く、何故なら、この「しみじみ」こそ、日本酒を味わう醍醐味だと思っているから、日本酒はしみじみ味わいたい…。だけれど、辛い料理を食べても、なかなか、しみじみとはならない。どちらかと言えば、いや、かなり「ヒーヒー、ハーハー」だから、ビールとかサワーとか、あるいはスピリッツ系をストレートで流し込み「プハーッ!」が心地よい。

 しかし、辛い料理と言っても、世の中、辛いだけの料理など普通は無い。甘味であったり、酸味であったり、苦味であったり、旨味であったり、その中から辛味が突出して感じるから辛い料理と言われる。辛い料理とビールやサワー、スピリッツをいただいた場合の効果は、何と言っても口中の辛さを洗い流すことであり、日本酒が少し苦手な分野ではある。これらの酒類より日本酒の優れているところは、甘味や酸味、苦味や旨味と同調したり、調和することによる更なる相乗効果を生み出すことにある。

 そこで、日本酒と一緒に楽しむことにより、料理だけ、あるいは日本酒だけの時よりも、いっそう美味しく感じることを観点に、あらためて検討してみる。

ポイントは「辛さとの折り合い」と「辛さに隠れた旨味との調和」

 たとえば、一味唐辛子と日本酒は、悪いとは言わないが、それぞれが、いっそう引き立つということは無い。あえて言うなら、辛さの余韻が長引くとでも言うと分かりやすい。おそらく、この印象が、辛味と日本酒の相性を探る際のベースとなる。

 まずは、大前提として、辛い料理は、辛い料理として楽しむべきなので、その辛さを日本酒で適度に包み込めるぐらいの辛さの料理が好ましい。日本酒を合わせることにより、多少辛さが和らぐ位の感じ、激辛とか○辛みたいな辛さは無理、要は「辛さとの折り合い」が重要である。

 次に、辛い料理の多くは、豊富な旨味がある。この旨味をいっそう引き立てるのは、日本酒の得意とするところであるが、旨味を引き立てながらも違和感無く、辛さを受け止めるべく役割を担うのが日本酒の持つ酸味の加減である。要は「辛さに隠れた旨味との調和」が重要であるとともに、それには、日本酒の持つ酸味の加減がとても重要であると考えられる。

日本酒と好相性のお薦め「家飲み辛い料理」

 一般的に家での辛い料理は限られる。一般的には、「麻婆○○」とか「キムチ」あるいは、キムチ味の料理を多く見かける。もちろん、その他の料理との相性の可能性も探りたいが・・・。結論として、「麻婆豆腐」と「キムチ」。これが、すこぶる日本酒と美味しい。さらに、そこには、何となく法則を見出したので、ご紹介する。

「麻婆豆腐」には「無濾過生原酒」!

 麻婆豆腐には、辛味以外に多くの旨味がある。肉の旨味、豆板醤などの発酵調味料の旨味、そして豆腐の旨味。まず、辛味を感じた後、それらの旨味が口一杯に広がり、心地良い辛味が余韻として残る様が何とも言えない。この一連の流れに相性の良い日本酒は、適度な酸味と甘味、ほのかなフルーティーな香り、そしてある程度のコクを感じるものがベスト。こういう日本酒は、「無濾過生原酒」に多い。特に、日本酒の持つ酸味が、口中が辛味から旨味に切り替わるタイミングで大変、良い働きをする。

 麻婆豆腐を一口、辛味を感じ、旨味に切り替わるタイミングで日本酒を一口。旨味を増幅させる裏で、心地良く感じるレベルに辛味を和らげる。この一連の流れをお楽しみあれ。

「キムチ」には「日本酒度-(マイナス)」!

 キムチもまた、辛味以外に多くの旨味がある。特に、魚介の旨味が多く含まれるものが多い。さらに、発酵食品であるから酸味も多く含まれる。多くのキムチは、まず、食べた瞬間、旨味や甘味を強く感じ、やがて、辛味が押し寄せるパターンが多い。そこで、キムチには日本酒度がマイナスのもの、すなわち甘口のものをお薦めする。

 キムチを口に入れた時に最初に広がる甘味と旨味。ここで、日本酒を一口。その後に押し寄せる旨味を増幅させ、これまた、心地良く感じるレベルに辛味を和らげる。この一連の流れをお楽しみあれ。

https://ienomi.tokyo/column/4284/

WRITERこの記事を書いた人

大森 清隆

日本酒サービス研究会・酒匠研究会連合会(SSI) 専務理事・事務局長

大森 清隆

都内ホテル勤務(レストランサービス)を経て、酒類輸出入卸売商社に勤務。
特に、清酒輸出卸売から現地輸入卸売までの一環事業を責任者として担当し、マーケティング・セールスプロモーション・取扱者教育の指揮を執った。
また、日本酒サービス研究会・酒匠研究会連合会の理事を務めるかたわら、消費者が外観か... もっとみる