日本酒と和食のペアリング大検証 Part③ 日本酒専門家・愛好家編
日本酒を知ろう!エディター
家飲み編集部
日本酒ビギナー編、外国人編を掲載し、最終回となる今回のパネラーは、2020年3月1日(日)に開催した「日本酒・焼酎テイスティングトレーニングセミナー 第10回:日本酒と料理の相性検証」の参加者です(有効回答数21名)※1。全員が日本酒愛好家ではありますが、「酒匠」または「日本酒学講師」の資格を持つ方を「専門家」、その他の方を「愛好家※2」と分けました。
日本酒を愛好するだけあって、酒類の嗜好も約90%が「かなり好む」「まあまあ好む」でした。なお、好む酒類の1位は日本酒でしたが、ワイン、ビール、ウイスキーなども好んでおり、日常的にさまざまな酒類を嗜んでいる方がパネラーとなりました。 日本酒の有効な提案を探るため、これまでと共通の日本酒と和食を用意し、嗜好の傾向を探りました。
※1 参加者全員から検証結果の掲載許可を得ています。
※2 愛好家13名中の12名は「唎酒師」認定資格を取得されています。
「テイスティングに使用した日本酒」
- 薫酒 出羽桜 純米吟醸酒(出羽桜酒造)
- 醇酒 大七純米生酛 CLASSIC(大七酒造)
- 爽酒 越乃景虎 超辛口 普通酒(諸橋酒造)
- 熟酒 人気一 特別純米酒 長期熟成酒1998年醸造(人気酒造)
日本酒の香味特性別分類(4タイプ)と 刺身から羊羹に至るまで和食7品を日本酒専門家・愛好家21名が試す
「基本調査」好む日本酒について
香味特性別分類(4タイプ)を試飲いただき、好みの順に4〜1 点をつけてもらった結果が下の表になります。「ビギナー層、外国人層と違い、醇酒の評価が最も高く、爽酒の評価は低い」「ビギナー層、外国人層同様に、薫酒の評価が高い」を特徴として挙げておきます。
なお、醇酒を好む理由としては、「日本酒ならではの旨味がある」「さまざまな料理と合わせやすい」「さまざまな温度帯で楽しめる」「他のタイプより伝統的価値が高い」などが挙がっていました。
日本酒、料理、相性に対するイメージなど
①日本酒のイメージとは?
「国酒であること」、「日本の伝統文化を象徴すること」といった文化的価値とともに、「様々な料理と合わせられる」、「日本料理(和食)と好相性を示す」といった食中酒としての汎用性の高さを挙げる人が多くみられました。その一方で「ワインなどに比べ香味の幅が狭い」、「他醸造酒に比べアルコール度数が高い」、「分類方法や表示規定が難解」といった点を指摘する声も聞かれました。 いずれにしても、日本酒を愛好する層なので、日本酒に対して具体的なイメージを持っていることは確かなようです。
➡日本酒愛好家は日本酒の価値を多面的に捉えている!
②好きな料理のジャンルは?
日本酒愛好家の約40%が「日本料理(和食)を好む」と回答。他の層も同様の回答であったことから、日本料理(和食)は多くの消費者層が好む料理のジャンルといえるかも知れません。
➡日本酒愛好家も日本料理(和食)を好んでいる!
③酒類および日本酒を飲む際に、料理との相性を気にするか?
日本酒愛好家は、酒類も日本酒も相性を気にしないという回答は皆無でした。
➡日本酒愛好家は、酒類および日本酒と料理の組み合わせを非常に気にしている!
④日本酒と料理の組み合わせでイメージするものは?
酒類と料理の組み合わせでは「日本酒と魚介料理(寿司、刺身など)」の次に、「肉料理と赤ワイン」が挙げられており、日本酒愛好家にとっても赤ワインが食中酒イメージとして定着していました。また、日本酒との組み合わせにおいては、「なめろう」、「味噌カツ」、「出汁巻き卵」などと具体的な料理名を挙げる人が多く、ビギナー層、外国人層よりも具体的なイメージを持っていることがわかりました。
➡日本酒愛好家は「和食に合う」「フレンチに合う」ではなく、具体的な料理とのペアリングを意識している!
「日本酒と和食の相性大検証」
ここから行う相性検証では、好きと答えた日本酒のタイプ、好きでないと答えた日本酒のタイプが、料理との相性によって評価が変わるのかと、相性の良し悪しを判定する理由が日本人ビギナー層、外国人層とどう異なるのかを中心に探りました。なお、一つの料理に対して4タイプすべての日本酒を試し、自身の嗜好により、◎、〇、 △、×と、その理由を記入。以下の表は◎、〇と答えた人の数を記載しています。
1.白身魚の薄造り(ポン酢+もみじおろし)
※この料理に対しては、1人を除く全員が「好き」「わりと好き」と回答。
●爽酒との相性が良いと感じた理由
さっぱり感が同調した/ポン酢の爽やかさと同調した/白身魚の甘さが引き出された/もみじおろしの辛味がドライな後味と同調した/ウオッシュ・リセット効果が高い(魚の生臭みが消えた)/無理なく自然に合う印象
★★★注目すべき点★★★
- 嗜好調査ではあまり好まれていなかった爽酒が、この料理との相性では高く評価されていたこと。
- ポン酢の爽やかさと薫酒が合う、もみじおろしの辛味と爽酒のドライ感と合うなど、素材だけでなく、味つけや薬味までを考慮して評価していたこと。
2.マグロの刺身(ワサビ+醤油)
※料理に対して、2人以外が「好き」「わりと好き」と回答。
「爽酒」と「醇酒」の相性を高く評価
●爽酒と淳酒の相性が良いと感じた理由
ウオッシュ・リセット効果が高い(生臭みが消えた、マグロの脂分を流した、後味がさっぱりした)/マグロの味わいがよくわかった(マグロがより美味しく感じられた)/ワサビの刺激と爽酒のドライ感が同調した/ワサビの香りが引き立った醇酒との相性が良いと感じた理由マグロ自体の濃い味わいと同調した/醇酒特有の原料香と醤油が好相性だった(醤油と合うという意見が多い)/醇酒がまろやかに感じられた
★★★注目すべき点★★★
- 爽酒、醇酒ともに、全員が◎または〇と評価したこと。
- ワサビとの相性なら爽酒、醤油との相性なら醇酒との回答が多かったこと。
- もう少し脂分のあるマグロのほうが醇酒に合うのでは、などと検証を通してより良い相性を探ろうとする人が多かったこと。
3.ワカメの酢の物(土佐酢+おろし生姜)
※料理に対し、「おおむね好む」傾向。
「爽酒」との相性を高く評価
●爽酒との相性が良いと感じた理由
さっぱりとした後味が心地良い/ワカメの味わいがよくわかる(磯の香りも引き立った)/生姜の辛味と爽酒のドライ感が引き合った/特質すべき評価はないが、このような無難な相性も価値が高いと思う
★★★注目すべき点★★★
- 今回の相性を「無難」と表現し、評価する人が多かったこと。
- 薫酒のフルーティーさと生姜のスパイシーさを女性が高く評価したこと(この組み合わせは外国人層も評価していた)。
- 土佐酢(出汁の効いた酢)をポイントとすると醇酒との相性に優れるという評価もあったこと。
4.鮭の塩焼き
※料理に対し、全員が「好き」「わりと好き」と回答。
「爽酒」「醇酒」との相性を高く評価
●爽酒との相性が良いと感じた理由
鮭の塩気と脂分をうまく流してくれた/鮭の味わいが引き立った( 料理が美味しくなる)/ウオッシュ・リセット効果が高いこと(鮭の生臭みが消えた、程よく脂を流した、後味がさっぱりした)
●淳酒との相性が良いと感じた理由
双方のコクが同調した/鮭の塩気と非常に引き合った/醇酒が美味しく感じられた(日本酒が美味しくなった)
★★★注目すべき点★★★
- 爽酒、醇酒がそれぞれ異なる理由で評価されていたこと(日本酒と料理のどちらを主役とすべきかが考慮されていた)。
5.豚の角煮(和辛子)
※料理に対し、2人以外が「好き」「わりと好き」と回答。
「醇酒」「熟酒」「爽酒」それぞれが異なる理由で高く評価された
●醇酒との相性が良いと感じた理由
双方のコクが同調した/旨味の余韻が印象的だった(心地良い)/醇酒がまろやかに感じられた/料理の甘味が引き立った/和辛子の風味が醇酒と引き合った/醤油の味わいが醇酒と調和した
●塾酒との相性が良いと感じた理由
双方のパワーバランスが均衡していた/タレの甘辛い味わいと同調した/特有の熟成香が心地良く広がった/熟酒のスパイシーな香りが良いアクセントになった/熟酒が料理のソースのような存在に感じられた/和辛子の風味と調和した
●爽酒との相性が良いと感じた理由
爽酒のウオッシュ効果により後味がスッキリした(料理が進む組み合わせであった)/料理の邪魔をしないとは、まさにこのことだと感じた(違和感がなかった)
★★★注目すべき点★★★
- ビギナー層、外国人層より、醇酒の評価が高かったこと(かつ、評価理由も多様であった)。
- 熟酒の評価が一番高い組み合わせであったこと(ビギナー層、外国人層も、それなりに熟酒との相性を評価していたが、日本酒愛好家の方が断然高かった)。
- この料理に対しては、香味特性の異なる日本酒がそれぞれの理由で評価されていたこと。
6.イカの塩辛
※料理に対し、「おおむね好む」傾向にあるが、「普通」「それほど好きではない」人も見られた。
「醇酒」との相性を高く評価
●淳酒との相性が良いと感じた理由
米由来の風味と塩辛の風味が完全に調和した/旨味と旨味が完全に同調した/双方の旨味が引き立った/塩辛の臭みが抑えられた/塩辛がまろやかに感じられた/醇酒がまろやかに感じられた/イカの持つ甘味が引き出されていた/醇酒を燗にすれば、より相性評価が高まると考える
★★★注目すべき点★★★
- 今回最も評価の高かったのがイカの塩辛と醇酒の組み合わせであったこと(すべての人が◎または〇と評価。なお、これらは定番の組み合わせとされているが、ビギナー層、外国人層はさほど評価していかなった。ビギナー層が最も評価したのは「マグロの刺身と爽酒」、外国人層が最も評価したのは「マグロの刺身と醇酒」)。
- 薫酒との相性もそれなりに評価されたこと(意外にという前置きありで「薫酒特有の吟醸香が邪魔でない」、「違和感がない」、「フルーティーな香りとの取り合わせは悪くない(新しい発見だった)」などと評価する声が少なくなかった。なお、これはビギナー層ヤング女性も同様の評価であった)。
7.羊羹
※料理に対し、「おおむね好む」傾向。
「熟酒」「薫酒」「爽酒」との相性が評価された
●塾酒との相性が良いと感じた理由
甘味と深みが同調した/羊羹の甘味が増して感じられた/熟酒のスパイシーさが程よいアクセントになった/熟酒の香ばしさが引き立った/熟酒の木質様の香りが引き立った
●薫酒との相性が良いと感じた理由
羊羹の甘さと甘い果実様の吟醸香の取り合わせは悪くなかった/薫酒のフルーティーな香りが良いアクセントになった/薫酒(吟醸酒系)と和菓子の組み合わせの可能性を感じさせた
●爽酒との相性が良いと感じた理由
羊羹の甘味がリセットされ、後味がスッキリ、サッパリした(羊羹が美味しくなる組み合わせ)/羊羹の甘味が引き立った/爽酒の軽快な苦味が程よいアクセントとなった
★★★注目すべき点★★★
- 他の組み合わせと比較するとさほど高評価ではなかったが、ビギナー層、外国人層と比べれば、かなり評価が高かったこと。
- 熟酒にとって良いパートナーだった(熟酒を引き立てる料理)と捉える人が多かったこと。
- 教科書的には相性が悪いとされそうな薫酒、爽酒を評価する声も少なくなかったこと(なお、羊羹と薫酒は、ビギナー層ヤング女性からも高評価を得ていた)。
「FBOもてなしびと2020年9月号」より引用
WRITERこの記事を書いた人
エディター
家飲み編集部
お酒が大好きなライター、アーティスト、編集者、イベンター、フードジャーナリスト、リカーショップスタッフなどなど、お酒を愛して止まない「イエノミスタ」が結成した「家飲み編集部」。それぞれの家飲みの風景や、お酒のセレクト、おつまりレシピなどをご紹介します!... もっとみる
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