和の調味料探求「酢」編

日本酒を知ろう!
和の調味料探求「酢」編
家飲み編集部

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参考/全国食酢協会中央会  http://www.shokusu.org

今や世界各国に普及しつつある日本の調味料。

私たち日本人にとっては、あまりにも身近な存在ゆえ、深く知る機会は意外と少ないのでは。「酢」をテーマに歴史や原料の違いによる種類、製造法などについてまとめました。

歴史

英語で酢を意味するvinegar は、vin(ワイン)とaigre(酸っぱい)を組み合わせてできたフランス語の vinaigre が語源で、酒に偶然、酢酸菌が付着し発酵してできたのが酢であり、人間が作り出した調味料の中で最古と言われている。文献に初めて登場するのは紀元前 5000 年頃で、当時はメソポタミア南部のバビロニアでナツメヤシや干しブドウから酢が造られていた。更に紀元前 4000 年には野菜を漬けたピクルスが作られていたことがわかっている。『旧約聖書』には酢が飲み物として登場しており、医学の父と呼ばれるヒポクラテスがその抗菌作用に注目して治療に活用していたという記録もある。

 日本に酢の醸造技術が伝わったのは 4 〜 5 世紀頃。酒造技術と共に中国からもたらされ、和泉の国(大阪府南部)で造られるようになった。奈良時代になると醸造が盛んになり、醤油の起源である醤に酢を混ぜた合わせ酢も作られていたようだ。鎌倉時代には、魚を酢に漬ける膾(なます)が登場。

この頃までは、酢は贅沢品で庶民には手の届かない調味料であったが、江戸時代に尾州半田(愛知県)で新しい醸造技術が開発されてからは価格が手頃になり、一般にも広く流通するように。にぎり寿司をはじめ、さまざまな料理に使われるようになった。

原料

 米や大麦などの穀物、リンゴやブドウなどの果実といった、さまざまな原料から造られる。米酢の場合、原料の米は国産と海外産の両方が使われており、海外産はアメリカ、オーストラリア、タイ、中国が多い。高級品として差別化を図るため、原料を国産や有機無農薬などにしぼった製品もある。

分類

<食酢>  

酢酸を主成分とする酸味調味料を、日本農林規格(JAS) では「食酢」としている。食酢は食酢表示基準により、以下のように分類されている。

醸造酢

 穀類、果実、野菜、さとうきび、ハチミツ、アルコール等を原料とし、酢酸発酵させたもの。氷酢酸や酢酸は使用しない。酸度は 4.0%以上。穀物酢と果実酢があり、原料により更に分類される。下記の条件を満たしていないものや、野菜、さとうきび、ハチミツなどを使ったものは醸造酢の名で販売され、トマト酢、ハチミツ酢といった原材料名をうたった商品名で流通しているものもある。

●穀物酢

 醸造酢のうち、1 種類または 2 種類以上の穀類を原料に使用し、その使用総量が 1ℓにつき 40g以上のもの。酸度は 4.2%以上。下記の条件を満たしていないものは穀物酢の名で販売される。

・米酢

 穀物酢のうち、米の使用量が 1ℓにつき 40g以上。なかでも米のみを原料にしているものは、一般的に純米酢の名で流通している。

・米黒酢

 米(精白したものを除く)またはこれに小麦もしくは大麦を加えたものを原料とした穀物酢。米の使用量が穀物酢 1ℓにつき180g以上で、発酵および熟成によって褐色または黒褐色に着色したもの。大麦黒酢と共に一般的には黒酢と呼ばれる。同じく黒酢と呼ばれる中国産の香醋(こうず)は、もち米を原料としており、日本の黒酢とはタイプが異なる。

・大麦黒酢

 大麦のみを原料とし、大麦の使用量は穀物酢 1ℓにつき180g以上。発酵および熟成によって褐色または黒褐色に着色したもの。

・赤酢

 酒粕を3 年ほどねかせて造る、赤みを帯びた酢。粕酢または酒粕酢とも呼ばれる。食酢表示基準では特に分類基準が設けられておらず、基本的には穀物酢に含まれる。元々江戸前寿司には赤酢が使われていたが、戦後の物資不足などの影響で流通量が激減。しかし、近年その魅力が見直され、使用する江戸前寿司の店が増えている。製造に時間がかかるため高級品になる。

・果実酢

 醸造酢のうち、1 種類または 2 種類以上の果実を原料とし、使用総量(果汁)が 1ℓにつき 300g以上。酸度は 4.5%以上。りんご酢、ぶどう酢などがある。

合成酢

 氷酢酸または酢酸の希釈液に砂糖類や酸味料、うまみ調味料などを加えたもの。またはそれに醸造酢を加えたもの。 大正時代から造られるようになり、米による酢の醸造が禁じられていた戦中〜戦後にはこちらが主流となった。しかし、1970(昭和 45)年に合成酢の表示が義務づけられるようになると生産量が減少し、現在は沖縄のみで常用されている。

<その他の酢>
●もろみ酢

 泡盛の蒸留過程でできるもろみ粕を原料にしたもの。酸の 主成分がクエン酸で、酢酸発酵していないため食酢には分類されない。

●合わせ酢

 古来、日本では酢を基本に他の調味料を組み合わせた、さまざまな合わせ酢(加減酢または調合酢)が作られてきた。

・二杯酢

 醤油を加えたもの。酢醤油とも呼ばれる。

・三杯酢

 醤油と砂糖を加えたもの。

・甘酢

 砂糖と塩を加えたもの。

・寿司酢

 砂糖、塩、みりんなどを加えたもの。

・土佐酢

 三杯酢にカツオ節を加えてひと煮立ちさせ、漉したもの。

・ゴマ酢

 醤油、砂糖、すりゴマを加えたもの。

・南蛮酢

 醤油、砂糖、ゴマ油、鷹の爪などを加えたもの。

・黄身酢

 合わせ酢に卵黄を加え湯煎にかけながら混ぜたもの。

・吉野酢

 合わせ酢に水溶き葛粉を加えてとろみをつけたもの。

製造

 酢は基本的に、酒を酢酸発酵させて造られる。ここでは純米酢の醸造を取り上げる。

①糖化

 蒸した米に米麹と水を加え、麹菌の働きで米のでんぷんを糖に変えて糖化もろみを作る。

②酒精発酵

 更に酵母を加えて糖をアルコール発酵させ、酒を造る。

③酢酸発酵

 酒を漉し、種酢(酢酸発酵が終わった食酢)を混ぜ合わせて温め、発酵槽に移して酢酸菌を加える。酢酸菌の働きによってアルコールが酢酸へと変わり、2 週間ほどで食酢になる。

④熟成

 酢酸特有の刺激臭を抑えてまろやかな味にするため、1〜2カ月熟成させる。

成分

 酢の主成分は酢酸で、アミノ酸やクエン酸も含む。酢酸と クエン酸が酸味の元となっており、アミノ酸由来の旨味もある。また、鼻にツンとくる刺激臭は、揮発性のある酢酸によるもの。酢酸は体内に摂取されるとクエン酸に分解され、唾 液や胃液の分泌を促進して食欲を増加させたり、糖分と組み 合わさることで疲労を回復効果をもたらす。更に、防腐効果もあり、古くから食品の保存として酢漬けが行われてきた。 強い酸性によってアルカリ性の物質を中和する効果を利用し、食用以外にも汚れや臭いを取る目的でも使われる。  栄養素は炭水化物が多くビタミンやミネラルも含むが、全 体の 90%以上が水分のため、含有量は少ない。

生産量・輸出量

2016 年の食酢の国内生産量は 43 万 5600㎘で、このうち穀物酢は 17 万 1300㎘、果実酢は 2 万 5800㎘になる。都道府県別では栃木、大阪、奈良の順に多い。家庭で調理する機会が減ったことなどが影響し、穀物酢の生産量はこの10年ほどで減少しているが、酢を使ったドレッシングや合わせ酢など既製品の合わせ調味料の消費量が増えていることから、穀物酢や果実酢を除いた、主に業務用に使われている醸造酢は生産量が増加しており、食酢全体の生産量は横ばい状態が続いている。

 海外への輸出量は年々増加の傾向にあり、2016 年で 1 万6870㎘。アメリカや中国、オーストラリア、台湾などに輸出されている。一方、イタリアや中国、フランス、アメリカなどか2743㎘が輸入されている。

地域別嗜好性

 酢の消費量は、食文化の均質化によって近年全国的に平均化しているが、西高東低の傾向がある。これは、気温の高い地域ではさっぱりとした酸味のある料理が好まれることや腐敗防止に活用されてきたことなどが理由に挙げられる。都市別に見ると、鹿児島市や和歌山市、宮崎市が多い。

 また、寿司酢の味つけは、東北・関東・甲越では甘味が弱く酸味が強い、関西・九州・山口・沖縄は甘味と旨味が強い、北海道・北陸・長野はその中間、東海・中国・四国は関西より甘味が強い、という傾向があったが、全国チェーンの寿司屋が多数登場して味が均一化され、近年は全国的に甘味が強くなっている。

酢の新展開

 美容や健康への意識の高まりから飲用としても注目されており、メーカー各社から酢を生かしたドリンクが多数発売されている。また、酢をアルコールや炭酸水などで割ったカクテルも人気がある。特にここ数年では、スムージーに酢を加えた“酢ムージー”も注目度が高まっている。一方、りんご酢やぶどう酢といった従来の果実酢に加え、各地で名産の果実を利用した果実酢が造られている。

 最近では酸味が苦手な人向けに、通常よりも酸味を抑えた酢も流通している。

最新トレンド酢製品

酢にさまざまな食材を組み合わせたものや、原料を工夫した酢など、ユニークな製品を紹介します。

お酢屋のジャム

「博多あまおう」と「梅」の2 種類があり、いずれも地元・福岡の素材を使用。ペクチン不使用で、国産ハチミツで甘味を付加し、自社醸造のリンゴ酢で酸味を利かせている。

有限会社九州酢造

☎ 092(938)3678 

https://www.k1104.com

食べる黒酢 激辛

玄米を原料とし長期熟成させた黒酢をベースに、玉ネギやにんにく、ショウガなどの具がたっぷり入り、鷹の爪と山椒で辛味を利かせたたれ。辛味のおだやかなタイプもある。

福山黒酢株式会社

☎ 099(218)8345

https://www.kakuida.com/

餃子(チャオ酢)

餃子を美味しく食べることをテーマに開発された専用の合わせ酢。黒豆から造った酢や同社の「純米富士酢」、長期熟成本みりん、カキ魚醤を合わせている。石臼挽きの粉山椒つき。

株式会社飯尾醸造

☎ 0772(25)0015

https://www.iio-jozo.co.jp

だし黒酢ジュレ

鹿児島名物である、霧島市福山産の壷造り米黒酢と枕崎産本枯れ節で取ったかつおだしを組み合わせ、ジュレに加工。ドレッシングやソース、つけだれとして活用できる。

中原水産株式会社

☎ 0993(72)2211

http://www.katsu-ichi.com

白ねぎ酢

白ねぎを米麹で発酵させて造った醸造酢。酸味はまろやかで、ほのかなねぎの風味としっかりとした旨味のある味。白ねぎ酢を原料にしたポン酢やソース&ドレッシングもある。

有限会社田中農場

☎ 0858(72)2826

http://www.farm-tanaka.jp

「FBOもてなしびと 和の調味料探求「酢」編 2018年5月号」より引用 

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お酒が大好きなライター、アーティスト、編集者、イベンター、フードジャーナリスト、リカーショップスタッフなどなど、お酒を愛して止まない「イエノミスタ」が結成した「家飲み編集部」。それぞれの家飲みの風景や、お酒のセレクト、おつまりレシピなどをご紹介します!... もっとみる