【検証】酒友グランプリ まぐろの漬け&ようかん

日本酒を知ろう!
【検証】酒友グランプリ まぐろの漬け&ようかん
家飲み編集部

エディター

家飲み編集部

テイスティングメンバーは、SSI理事で第4回世界唎酒師コンクール優勝者、コンラッド東京レストラン セリーズ/コラージュのマネージャーを務める北原康行氏、日本酒に関するオンラインビジネスSakeWiz(サケワイズ)の取締役で、庶民的な立ち飲み屋にもよく行くという来日歴3年のジェイソン・エヴァンス氏、日本人とオーストラリア人の両親を持つ大学生で日本酒ビギナーのワイキャンプ朝海さん、長田卓研究室長の4名。

 テイスティング内容は、酒友グランプリの伝統部門のテーマである「まぐろの漬け」と香味特性による4タイプとの相性、同じカテゴリーでも味わいの傾向が異なるものと比較することで相性が変わることを証明するために「真鯛刺身ポン酢」。同様に革新部門のテーマ「ようかん」と「ガトー・ショコラ」で検証を行い、続いて酒友グランプリのブラインドテイスティングによるエントリー投票で両部門のグランプリになった日本酒との相性を検証しました。

メンバー

北原 康行氏

コンラッド東京 レストラン セリーズ / コラージュマネージャー
SSI 理事、第 4 回世界唎酒師コンクール優勝者
2012 年に唎酒師の資格を取得。著書『日本酒テイスティング』(日本経済新聞出版社)。

ジェイソン・エヴァンス氏

SakeWiz 取締役
イギリス出身、3 年前に来日。サイトでの情報発信や物販の他、和酒バル「Firenze SAKE」の経営等。

●ワイキャンプ朝海さん

上智大学 4 年生。酒は飲めるほうだが、主にカクテルやワインなどで日本酒の経験は少ない。

●長田 卓

NPO 法人 FBO・SSI 研究室長

【テイスティングに使用した日本酒】

  • 薫酒 出羽桜 純米吟醸酒(出羽桜酒造)
  • 醇酒 大七純米生酛 CLASSIC(大七酒造)
  • 爽酒 越乃景虎 超辛口 普通酒(諸橋酒造)
  • 熟酒 人気一 特別純米酒 長期熟成酒1998年(人気酒造)

伝統部門「まぐろの漬け」グランプリ
大吟醸 相生乃松
相生ユニビオ株式会社(愛知県)精米歩合:40% アルコール度数:15度

革新部門「ようかん」グランプリ
特別本醸造 無濾過 雫しぼり
合資会社光武酒造場(佐賀県)精米歩合:60% アルコール度数:18度

テイスティング1 「まぐろの漬け」

長田 まず最初の検証は「まぐろの漬け」と香味特性による4タイプとの相性です。イベントにおいては、ポイントが高かった順に薫酒263P、醇酒210P、爽酒190P、熟酒56Pという結果になりました。これまで、日本酒のプロや専門家たちの間では、薫酒のフルーティーな香りと料理を合わせるのは難しいと言われてきましたが、それが一般客主体の投票によって異なる味方が出てきたわけですね。このことを踏まえ、みなさんに改めてテイスティングいただきたいと思います。ちなみに初参加のワイキャンプさんとエヴァンスさんは、先にお酒単体で4種をテイスティングいただき、どれが個人的な好みであるかもコメントお願いします。 (敬称略)

ワイキャンプ  私は、日本酒単体では薫酒がフルーティーで飲みやすいと思いました。が、まぐろの漬けと合わせると、薫酒も悪くはないですが、4タイプの中では爽酒が一番合うと感じました。醇酒はまあ普通で、熟酒はまぐろの味が消えてしまいます。

エヴァンス 私も同様に単体では薫酒が好みです。まぐろの漬けとの相性では、醇酒が一番いいですね。特にわさびをちょっとつけたことでより味わいにインパクトが出て、醇酒がスムーズに楽しめました。薫酒は、最初にわさびが勝ってしまいますが、後味はお酒の余韻があり悪くない。爽酒はリフレッシュされるが、まぐろを引き立てる要素は感じられません。意外でしたが、熟酒はまぐろを甘くさせて合うのではないかと思いました。単独で飲んで美味しいと思うお酒と、料理と合わせて美味しいと感じるお酒は違うことがわかりました。

北原 私は醇酒が好相性だと感じました。酒のまろやかな旨味が引き立ち、余韻も良く、相乗効果により肴も進みます。爽酒は互いに邪魔はしないが相乗効果も特にない。薫酒は合わないわけではないが、フルーティーさがアフターまで続き、まぐろの漬けの風味は消されてしまう。熟酒はお酒の味が勝り、わさびと反発すると思いました。

長田 投票で薫酒がもっとも評価されたのはどうしてだと思われますか。

北原 まず、近年の傾向として、薫酒と料理の組み合わせに慣れている人が増えたことが大きいと思います。また、わさびをつける人のほうが一般的であることが挙げられると思います。わさびのグリーンノートとアロマティックな風味は薫酒の香りと引き合うので評価されたのではないかと。

エヴァンス 薫酒はビギナーにも美味しいと感じやすく、食事に対してもそれほどネガティヴな影響を与えないので、選ばれやすいのではないかと思いました。

テイスティング2 「真鯛刺身 ポン酢」

長田 では次に、まぐろの漬けとの相性をもっと深く追求するために、別の刺身と4タイプを合わせてみましょう。用意したのは白身魚の一例として真鯛と、醤油ではなくポン酢です。

ワイキャンプ さっぱりとした白身魚だと、爽酒が一番合いました。薫酒はまあまあですが、ポン酢の香りとは少し違和感を感じます。醇酒、熟酒は相性が良いとは思えませんでした。

エヴァンス 私も爽酒との相性が好み。薫酒もなかなかいいと思います。まぐろの漬けと違って醇酒はやや合わず、熟酒は合わない。

北原 私も爽酒がベスト。互いの風味を殺さず、スムーズな口当たりで双方が進む。薫酒とポン酢の相性は悪くないが爽酒ほどではなく、醇酒では真鯛の繊細な味が消えてしまう。ただし、わさびをつけると薫酒と醇酒の評価はもう少し上がりますが。熟酒では真鯛の味はまったくなくなってしまいます。

まとめ:まぐろの漬けと真鯛刺身 ポン酢との検証結果

長田 みなさん爽酒が良いというところで一致しました。一口に刺身と言っても、まぐろの漬けと白身魚のポン酢では相性の良いお酒は違うということですね。検証結果からすると、赤身魚と白身魚、またはわさび醤油とポン酢では、合わせるお酒を変えるべきというところでしょうか。

北原 まぐろの漬けの場合、日本酒以外のお酒を合わせるのが難しいので日本酒が有利になりますが、白身の場合は白ワインなどと好相性を示すこともある。そう考えると、まぐろの漬けとの組み合わせが、日本酒のプロモーションとしては有効であると思います。

長田 酒友グランプリと今回の検証を通じて、食中酒としての薫酒の汎用性は、思ったより広いことがわかりましたね。フルーティーな香りは料理の邪魔をするのではなく、むしろ心地良い風味をもたらす、そんなふうにとらえる人が多くなっているのかもしれません。また、まぐろの漬けには、熟酒以外はかなり評価する人が多いことがわかりました。まぐろの漬けは日本酒のパートナーとしてふさわしい料理であると言えましょう。中でも薫酒がトップであったことから、いわゆる「大吟醸のような吟醸香の高いものに料理は合わない」といった定説にとらわれず、味覚上の相性だけでなく、相手の好み等を考慮しながら相性を提案することの重要性がわかりました。

テイスティング3 「ようかん」

長田 日本酒とスイーツの相性が評価される時代になったことを受け、革新部門として第1回は「ようかん」をテーマとしました。結果は多い順に熟酒212P、爽酒179P、薫酒176P、醇酒138P。料理との相性の幅が狭いとされる熟酒がトップとなったこと、またそれ以外の3タイプも比較的僅差であることを踏まえて検証してみましょう。

ワイキャンプ 私は、スイーツは好きですが、和菓子は普段あまり食べないです。日本酒と組み合わせるのも初めて。熟酒はようかんの風味を消さずにいいと思いましたが、他の3タイプはあまりピンときませんでした。

400700

テイスティング4 「ガトー・ショコラ」

長田 では、同じ濃厚な甘さを持つスイーツでも、洋菓子のガトー・ショコラだったらどうなのかを試してみたいと思います。

ワイキャンプ まったく合わないとも思わないのですが、美味しい組み合わせはどれかと言われると難しいです。しいて言えば熟酒でしょうか。醇酒は香りが合わない気がしました。

エヴァンス 熟酒はようかんと同様、甘くリッチなペアリングで良かったです。醇酒もいけます。薫酒と爽酒はあまり合いません。

北原 甘さというよりもカカオのビターテイストと熟酒のそれとが同調するのだと思います。他3タイプはお酒の酸と苦味が立って、私には不快に感じられます。

まとめ:ようかんとガトー・ショコラの検証結果

長田 これまでスイーツ類と日本酒を合わせたいと思う消費者も、お店で出したいと思う提供者も少なかったのが現状だと思います。でも、実際に合わせてみると、美味しく、おもしろい組み合わせを発見するができました。また、和菓子と和酒(日本酒)という提案は、物語性にも優れる。更に、甘いものは老若男女問わず楽しめますが、それを日本酒と楽しめるのは大人だけの特権。このような切り口で、消費者の興味を惹き、新たな楽しみ方として広めていきたいですね。

テイスティング5 「伝統部門グランプリの日本酒との相性」

長田 エントリー投票でまぐろの漬けともっとも合う日本酒としてグランプリになった、「大吟醸 相生乃松」とのマッチングを検証してみたいと思います。このお酒は薫酒に該当しますが、薫酒としては深みのある味わいとなります。

ワイキャンプ 甘めで飲みやすく、フルーティーで美味しいですね。まぐろの味も消していないと思います。

エヴァンス まぐろの漬けと合わせると、やや甘味が気になります。個人的にはもっとドライ感を求めます。

北原 このお酒が持つ旨味や甘味と、まぐろの漬けの旨味と塩味が一体化します。食べて飲むと、また食べたくなる、そんな組み合わせだと思いますので、グランプリに選ばれたのも納得がいきます。

長田 相生乃松が持つ甘味がポイントとなったようですね。ただし、評価には個人差があることには留意しなければならないようです。

テイスティング6 「革新部門グランプリの日本酒との相性」

長田 一方、ようかんにもっとも合う日本酒としてグランプリに なったのが、「特別本醸造 無濾過 雫しぼり」です。薫酒に位 置づけられますが、爽快な味わいも持ちますね。

ワイキャンプ ベストかどうかは好みによると思いますが、誰に 聞いてもベターだと評価されるとは思いました。

エヴァンス アルコール度数が高く、ボリューム感もあるので、 濃厚なスイーツにも負けないと思いました。でも個人的に熟酒も 捨てがたいです。

北原 確かに評価の平均点が高かっただろうと予想します。万人 に好まれる組み合わせと言えましょう。投票で上位となるのがわ かります。

長田 酒友グランプリでは熟酒がトップでしたが、薫酒も爽酒も 僅差です。皆様の評価をうかがい、ようかんと日本酒の組み合わせはさまざまに活用できそうですね。

終わりに

長田 最後にそれぞれ一言ずつ感想をお聞かせください。

ワイキャンプ 日本酒のいろいろな香りや味わいを経 験でき、貴重な時間でした。私のようなビギナーの場合、お店側からベストな組み合わせを提案してもらえると、試そうという気になるので、そのようなサービスを期待しています。

エヴァンス 日本酒の幅の広さとペアリングの重要性 を改めて感じました。スイーツとの組み合わせもおもしろいですし、今後は和食だけでなく、イタリアンやスパ ニッシュなど各国料理とのペアリングも提案すべきではないでしょうか。また、熟酒の魅力ももっと外国人に知らせたいと思います。

北原 今回のグランプリや検証によってわかったこと は、プロの想定と一般の方の嗜好が異なることもある ので、常にお客様のニーズをキャッチするとともに、更なる感動や発見のある食シーンを提案するように努めるべきだと再認識できました。日本酒と甘味の組み合わせはまだ検討の余地がありますが、今後新たな発見があるはずという期待も高まりました。

検証結果総論

酒友グランプリでの投票結果と、今回誌上において行った検証を整理すると以下になります。

●幅広い層に好まれる「薫酒」と飲みなれた人に支持される「醇酒」。

・伝統部門「まぐろの漬け」と香味特性別(4タイプ)の相性

 伝統部門においては、投票結果のトップが薫酒であったのに対し、検証では醇酒が◎3人と高評価だった。が、薫酒は4人全員が◯の評価をしており、安定人気とも言える。また、投票結果の2位は醇酒であるため、おおむね見解は一致している。フルーティーな薫酒が普及して人気が高い現代において、もはや薫酒を料理に合わせることは意外という感覚が一般の人々にはないのかもしれない。プロと消費者との認識のズレがあるとしたならば、修正が必要である。

●甘味と日本酒の組み合わせは更なる研究を求む。

・革新部門「ようかん」と香味特性別(4タイプ)の相性

 革新部門においては、投票結果と検証ともにトップは熟酒。

熟酒は他の3タイプに比べ、料理に合わせる機会が少なく、食後酒としての提案が多いが、これを機に甘味との相性研究を深めていく価値があると言えるのではないだろうか。また、熟酒とは対照的に、甘味をすっきりさせるタイプとして爽酒が投票結果と検証ともに評価されている。

「FBOもてなしびと 【検証】酒友グランプリ まぐろの漬け&ようかん 2018年1月号」より引用 

WRITER 家飲み編集部さんのオススメ

この記事で紹介したアイテム

https://ienomi.tokyo/column/3110/

WRITERこの記事を書いた人

家飲み編集部

エディター

家飲み編集部

お酒が大好きなライター、アーティスト、編集者、イベンター、フードジャーナリスト、リカーショップスタッフなどなど、お酒を愛して止まない「イエノミスタ」が結成した「家飲み編集部」。それぞれの家飲みの風景や、お酒のセレクト、おつまりレシピなどをご紹介します!... もっとみる