郷土料理 関東編

日本酒を知ろう!
郷土料理 関東編
家飲み編集部

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 関東平野を中心に、北と西は山地、南と東は太平洋に囲まれた関東地方。茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉、東京、神奈川の1都6県からなりますが、夏は暑く冬はからっ風が吹く栃木や群馬は、小麦粉の生産がさかんだったことから粉食が親しまれ、千葉は房総半島沖で水揚げされる魚介の料理が多数伝わるなど、地域によって風土を反映した多様な郷土料理が存在しています。また、江戸時代から政治経済・文化の中心地だった東京では、寿司やおでん、天ぷらなど、今や全国区となった料理も多数誕生しました。日本の人口の1/3が集中していることから、地方別の農業産出額では関東地方が全国でトップであり、酒造好適米はひたち錦(茨城)、とちぎ酒14(栃木)、舞風(群馬)、さけ武蔵(埼玉)、総の舞(千葉)、若水(神奈川)などを栽培。酒蔵は179軒あります。

漬け物・珍味

●イワシのごま漬け(千葉) 

頭と内臓を取ったカタクチイワシを塩漬け後、黒胡麻や柚子の皮、生姜、鷹の爪などと共に酢漬けにする。九十九里で大量に獲れるイワシを長期保存する方法として作られてきた。

●おなめ(埼玉) 

麦味噌作りがさかんな秩父で親しまれている。麦麹に塩、砂糖、水などを混ぜ合わせた保存食で、季節によってフキノトウ、ミョウガ、ナス、生姜などを刻んで加えて食べるのが一般的。箸をなめるほど美味しいことが名の由来。

●ごさい漬(茨城) 

サンマを大根と共に柚子の皮、鷹の爪、塩で漬けて発酵させたもの。材料が五つなので五彩(ごさい)と呼ばれるようになった。鹿島灘沿岸で11月下旬頃から水揚げされるサンマを使って冬の保存食として作られ、おせち料理にも出される。

●しゃくし菜漬け(埼玉) 

しゃくし菜は主に秩父で栽培されている野菜。秋に収穫して塩漬けにし、保存食として1年中食される。そのまま食べる他、炒め物やまんじゅうの具にすることもある。

●すだれ麩のゴマ酢あえ(茨城) 

すだれ麩は、小麦粉から取り出したグルテンの生地をすだれに伸ばし、塩をすりこんでゆで、よしずに並べて天日で乾燥させたもの。結城市に伝わる麩で、主にゴマ酢であえて食べられるが、最近ではワカメやキュウリを加えることもある。葬式には欠かせない料理。

●そぼろ納豆(茨城) 

水戸の名産である小粒の納豆を使用。切り干し大根と共に醤油等の調味料で漬ける。酒の肴やご飯の供、お茶請けとして供される

●なめろう(千葉) 

房総半島周辺の漁師飯。生の魚を味噌、ネギ、生姜等と共にねばりが出るまで包丁でたたく。船上で調理するため、調味料はこぼれやすい醤油よりも味噌が使われるようになったとされる。魚はアジが一般的だが、カツオやサンマ、トビウオ、イカを使う場合も。皿までなめるほど美味しいことから名がついた。平らにして焼いたものは「さんが焼き」と呼ばれる。

●べったら漬(東京) 

厚切りにした大根を浅漬けにした後、甘酒をベースにしたぬか床に漬ける。江戸時代中期にアメと麹に漬けた大根が売られたのが起源。当時から日本橋の宝田恵比寿神社で毎年10月19〜20日に開催される市は、べったら漬が評判になったことから、後にべったら市と呼ばれるようになった。15代将軍の徳川慶喜が好んで食したとされている。

●落花生味噌(千葉) 

煎った落花生に、味噌や砂糖、日本酒などをからめる。落花生はタンパク質や脂肪などの栄養が豊富なことから、各家庭で保存食として常備されてきた。「ピーナッツ味噌」とも呼ばれる。

●らっきょう漬け(栃木) 

日光で古くから親しまれている。醤油や味噌の製造過程でできるたまりにらっきょうをアメ色になるまで漬けたもので、らっきょうの発酵熟成とたまりの旨味によって奥深い味になる。地元ではらっきょう以外にもさまざまな野菜を使ったたまり漬けも名産として知られる。

焼き物

●宇都宮餃子(栃木) 

具は肉よりも野菜が多く、酢とラー油で食べるのが一般的だが、明確な定義はなく、焼き餃子の他、水餃子、揚げ餃子、スープ餃子等も宇都宮餃子と呼ばれる。起源は、満州に遠征していた陸軍の駐屯地が宇都宮にあり、現地から餃子の作り方が持ち込まれたという説など、諸説ある。

●かんこ焼き(神奈川) 

かつて稲作に適さない山間部だった津久井地区で、ご飯の代わりに食されていた。地元産の小麦粉を水で練った皮で山菜やキノコ、カボチャ、サツマイモ、漬け物などのさまざまな具を包んで焼く。雅楽に使われている太鼓のかんこに見た目が似ていることから名がついたと言われている。

●行田フライ(埼玉) 

水で溶いた小麦粉に卵や肉、ネギ等を入れて焼き、ソースや醤油で味つけ。フライと言っても揚げ物ではなく、行田市周辺が布の産地であり「布来」と名づけられたという説や、「富よ来い」に引っかけた、フライパンで焼くから、といった諸説がある。昭和初期、地元の足袋工場で働く女性工員のためにおやつとして出されていたのものが、腹持ちの良さから各家庭に広まったとされる。

●もんじゃ焼き(東京) 

鉄板でキャベツや揚げ玉、切りイカ、桜海老、肉などを炒めて土手を作り、水で薄く溶いた小麦粉の生地を流して混ぜながら焼き、ソースやカレー粉等で味つけ。生地で文字を書きながら焼いていたことから、文字焼きがなまってもんじゃ焼きと呼ばれるようになったとされる。

●焼きまんじゅう(群馬) 

小麦粉にどぶろくを混ぜて発酵させた生地を使用。団子にして串に刺し、味噌だれをぬって焼く。150 年以上の歴史があり、花見や夏祭り等の行事で、主に屋台で販売されている。近年ではあん入りや辛味噌など、新しいバリエーションも登場している。

●焼きもち(郡馬) 

小麦粉にネギや大葉、フキノトウ等の具、味噌を混ぜ、水で練って円形にしてほうろくで焼く。農作業の合間におやつとして食べられていた。「おやき」とも呼ぶが、地域によって具や作り方、呼び方が異なる。

汁・鍋・煮物

●アンコウ鍋(茨城) 

アンコウの身や七つ道具を野菜と共に煮込む。アンコウの水分のみで煮て味噌で味つけしたものは「どぶ汁」と呼ぶ。アンコウが安価だった頃、北茨城の漁師が船上で食べていたどぶ汁が始まりとされている。

●いとこ煮(栃木) 

カボチャと小豆、またはその他の豆類とイモを煮て醤油や味噌で味つけする。材料を順番に、追々入れて煮ることから、甥甥に引っかけていとこ煮と呼ばれるようになった。冬至に食べると風邪を引かないと言われている。

●小田原おでん(神奈川) 

かまぼこの名産地として知られる小田原で、町おこしのための新たな名物として2003年に誕生。地元の練り物店が各店で開発したオリジナルのおでん種を使ったものを、市内の飲食店で提供している。同じく名産の、梅味噌をつけて食べる。

●牛鍋(神奈川) 

明治時代に横浜で生まれた。西洋文化の影響を受け、外国人居留地近くで串に刺して焼いた牛肉を提供する店が増え、その後日本人に合う料理として牛肉を煮込んだ鍋が登場。当初は肉の臭みをおさえるために味噌で煮込んでいたが、醤油と砂糖の割下で煮るようになり、これがすき焼きの元となった。明治時代から続く老舗では、肉を薄切りではなくぶつ切りにする店もある。

●建長汁(神奈川) 

鎌倉・建長寺の僧が作ったすまし汁で、全国で親しまれているけんちん汁の起源とされる。動物性の食材を使わない精進料理の一つで、大根やニンジン、豆腐、コンニャクなどをゴマ油で炒め、昆布とシイタケから取っただし汁で煮る。700 年ほどの歴史があり、かつては祝い事で食されていたが、現在は地元の飲食店で供されている。

●こしね汁(群馬) 

名産のコンニャク、シイタケ、ネギを具にした味噌汁で、各素材の頭文字から名づけられた。豚肉や油も入れてコクを出し、その他の野菜も入れて具だくさんにする。給食でも定番メニューになっている。

●しもつかれ(栃木) 

塩鮭の頭、煎った大豆、鬼おろしですりおろした大根とニンジン、油揚げなどを煮て醤油と酒粕で味つけする。鎌倉時代初期から作られており、旧暦の2月の初午の日に、赤飯と共に稲荷神社へそなえて無病息災を祈るとともに、日常食としても食されてきた。本来、塩鮭はおせち料理、大豆は節分で余ったものを活用する。群馬県でも「すみつかれ」の名で親しまれている。

●すいとん(栃木) 

小麦粉を水で練った生地を軽くにぎって汁に入れ、野菜と共に煮る。味つけは味噌や醤油など、家庭によってさまざま。県内各地で作られているが、「はっと汁」や「とっちゃなぎもち」など、地域で呼び名が変わる。ご飯の代わりとして食されてきた。

●柳川鍋(東京) 

名の由来は、初めて作った店の屋号、福岡の柳川焼の鍋を使っていることなど諸説ある。骨や内臓を取り除いたどじょうと笹がきにしたゴボウを割下で煮て、溶き卵でとじる。どじょうを丸ごと使い、卵は加えずだし汁は味噌や醤油で味つけするものは、「どぜう(どじょう)鍋」。

飯・丼

●かてめし(埼玉) 

米が貴重だった頃、かさ増しをするため、濃いめに味つけした野菜の煮物を混ぜ込んだのが始まり。かては秩父の方言で混ぜるという意味。行事食で、季節や地域によって具が変わる。

●塩鮭の押し寿司(茨城) 

薄く切って酢に漬けた塩鮭、酢飯、醤油や砂糖で味つけしたニンジンのせん切り、シイタケ、柚子の皮などの具、酢飯の順に重ねた正月料理。元々は新巻鮭が使われていた。

●しらす丼(神奈川) 

茅ヶ崎や江ノ島、鎌倉の名物で、しらす漁がさかんで新鮮なものが手に入ることから、生のしらすを使う。ネギや海苔、大葉、生姜などの薬味と共にご飯の上に盛り、醤油かたれをかけて食べる。

●なめがた丼(茨城) 

行方市が地域振興のため開発・推進し、18軒の加盟飲食店が提供。霞ヶ浦の魚介と地元産の野菜を使うことが条件だが、魚種は霞ヶ浦の名産であるナマズをはじめ、白魚、鯉、川海老など、調理法も唐揚げや天ぷら等、店舗によってさまざまなバリエーションがある。

●深川丼(東京) 

アサリやネギ、油揚げで作った味噌汁をご飯にかけた丼。アサリの漁場だった深川で、漁師が船上で食べていたものが発祥で、現在は清澄白河や門前仲町等の飲食店で提供されている。同じ材料をご飯と共に醤油味にして炊いたものは「深川めし」と呼ばれる。

●太巻き寿司(千葉) 

酢飯と、かんぴょうやシイタケ、ニンジン等の季節の野菜、魚の具を海苔か薄焼き卵で巻く。野菜や魚介の具を芯にして巻く技法が各家庭に伝わり、冠婚葬祭で食べられるようになった。花や動物などのさまざまな図柄が特徴。

●べっこうずし(東京) 

青唐辛子入りの醤油に漬けた魚と酢飯をにぎった、伊豆大島の寿司。伊豆大島は気候が温暖で、ワサビの代わりの防腐剤として青唐辛子が使われた。魚は真鯛やアジ、トビウオ、カツオ等を使用。醤油に漬けた魚の色から名がついた。「島寿司」とも呼ばれる。

●海軍カレー(神奈川) 

明治時代の海軍のレシピ集『海軍割烹術参考書』を元に再現したカレー。元々はイギリス海軍のカレーシチューをアレンジしたもので、日本のカレーのルーツとされている。横須賀の認定店で提供。ルーはカレー粉と小麦粉で作り、具は牛肉または鶏肉、ジャガイモ、ニンジン、タマネギを入れるのが条件。薬味としてチャツネが添えられ、サラダ、牛乳と共に提供される。

麺類

●おっきりこみ(群馬) 

小麦粉で作った平たく太い麺を、サトイモ、カボチャ、大根、ニンジン、キノコ等と一緒に醤油味のだしで煮込む。生の麺を加えるため、打ち粉が溶けてとろみがつくのが特徴。養蚕農家の女性が、仕事の合間に手早く大量に作れる料理として浸透。麺を切っては入れ、切っては入れすることから名づけられた。地域によって「おきりこみ」「煮ぼうとう」とも呼ばれ、埼玉でも食べられている。

●佐野ラーメン(栃木) 

中太のちぢれ麺と醤油味のスープが基本だが、スープのベースは鶏ガラや豚骨など、店によって異なる。麺は中国・山東省出身の料理人から伝わった、青竹を使う方法で打つが、現在は同様の打ち方ができる製麺機を用いる店もある。

●サンマーメン(神奈川) 

1930(昭和5)年に横浜中華街の「聘珍樓」の料理長が考案。横浜の中でも多摩川と大井川の間で食されている。漢字では生碼麺または三碼麺と書き、いきが良い食材を使うこと、もやし、ターサイ、豚肉の3種類の具を使っていたことなど、名前の由来は諸説ある。醤油または塩味のラーメンの上に、もやしやキャベツ等の野菜、キクラゲ、豚肉が入ったあんをかける。

●冷汁うどん(埼玉) 

味噌やゴマ、砂糖をすり鉢ですり、冷たいだし汁でのばしたつゆにうどんをつけて食べる。つゆにはキュウリ、ナス、大葉、ミョウガ等も薬味として入っている。夏の農作業の合間に手軽に食べられる食事として親しまれてきた。川島町一帯では「すったて」とも呼ばれる。

●ひもかわうどん(群馬) 

平たく打ったうどんで、厚さは1㎜、幅は1.5〜10㎝と店舗によって異なる。おっきりこみとは違い、生地に塩も加えており、一般的なうどんと同様の食べ方をする。元々は三河の芋川(現在の愛知県刈谷市)が起源で、芋川がなまって呼ばれるようになったという説が有力。主に桐生市で食されている。

●水沢うどん(群馬) 

日本三大うどんの一つで、400年ほど前から伊香保温泉近くの水澤寺付近で参拝者向けに提供されたのが始まり。現在でも近辺の飲食店で提供されている。やや太めでコシがあり、透明感のある麺が特徴。冷たいざるうどんで供されるのが一般的で、つゆの味つけは店によってさまざまだが、醤油味とゴマだれに大別される。

●耳うどん(栃木) 

耳のような形をしたうどん。野菜や肉と一緒に醤油味のだし汁で煮込む。仙波地区に伝わる正月料理で、鬼の耳に見立てて「食べれば鬼に家の話を聞かれずに済むので無病息災で過ごせる」「悪口が聞こえなくなるので近所とのつき合いが円満にいく」といった言い伝えがある。

「FBOもてなしびと 郷土料理関東編2020年1月号」より引用 

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お酒が大好きなライター、アーティスト、編集者、イベンター、フードジャーナリスト、リカーショップスタッフなどなど、お酒を愛して止まない「イエノミスタ」が結成した「家飲み編集部」。それぞれの家飲みの風景や、お酒のセレクト、おつまりレシピなどをご紹介します!... もっとみる